きょう公示 安倍「1強政治」が問われる - 信濃毎日新聞(2019年7月4日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190704/KP190703ETI090010000.php
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参院選がきょう公示される。
過去6年間、安倍晋三首相は衆参の選挙で連勝してきた。築き上げたものは、過去に例がないほどの「1強」体制である。
首相は記者会見で参院選の争点について「安定した政治の下で新しい時代への改革を前に進めるか、混迷の時代に逆戻りするかだ」と述べている。
「安定」とは何か。与党はこれまで異論がある法案を十分に審議しないまま、採決を強行して次々と成立させてきた。「独走」の政治が続くことを是とするのか。有権者が判断する機会となる。
争点は多い。首相はほかに憲法改正を掲げる。立憲民主党枝野幸男代表は年金制度の不安を追及する。10月に予定される消費税増税の是非も対立軸となる。
国の将来を左右する重大な問題だ。各党と各候補は掲げる政策を詳しく、分かりやすく説明し、議論を深めていかねばならない。

改憲勢力の行方は>

参院は任期6年で、3年ごとに半数ずつ改選する。昨年の公選法改正で定数が6増となり、今回はこのうち3増が適用される。争われる議席数は124となる。
自民、公明両党は今回の選挙で計53議席を得れば、非改選と合わせて過半数を維持できる。
2013年の参院選では、自民65、公明11の計76議席を得て大勝した。目減りをいかに減らすか守りの選挙だ。首相はきのう、議席目標について非改選議席を含む過半数と明言した。低めの設定になる。議席を減らして責任論が出るのを封じる狙いだろう。
立民など野党5党派は、長野など全国に32ある改選1人区で候補を一本化して、政権批判票の集約を目指している。野党共闘の成否が全体の勝敗を左右する。3年前も統一候補を立て11勝21敗だった。前回を上回る結果を出せるかどうかが大きな焦点になる。
もう一つは、安倍政権下での憲法改正に前向きな「改憲勢力」が、改憲発議に必要な3分の2以上を維持するかどうかである。
非改選の改憲勢力は78人で、今回86議席を獲得すれば3分の2となる。ハードルは高い。首相は獲得議席に応じて改憲勢力の結集を目指すだろう。

<議論を封じる手法>

気になるのは、有権者の関心が強い問題の争点化をあえて避ける与党の手法だ。典型的なのは、6月26日に閉幕した通常国会での政府と与党の対応である。
衆参両院とも予算委員会が予算案が3月に通過した後、一度も開かれなかった。国政に関する全般をチェックする場だ。時々の主要議題を巡り、与野党が攻防を繰り広げてきた歴史がある。
問題は山積している。経済は後退の懸念が高まり、外交は対ロシア、対北朝鮮などで展望が描けていない。対米では貿易交渉の先行きが不透明だ。
年金問題では、麻生太郎金融担当相が年金の健全性に「誤解を招く」として、金融庁金融審議会の報告書を受け取らなかった。誤解があるなら詳しく説明するべきだ。それなのに与党は野党の予算委開催の要求を無視し続けた。
問題点を明らかにしないで選挙に臨み、終了後に有権者の信任を得たと主張するのは、この政権の常とう手段だ。議論をしない姿勢は民主主義の根幹を脅かす。選挙戦で十分に説明するべきである。
与党は13年の参院選で大勝して参院で野党が多数を占める「ねじれ」を解消した。同年に特定秘密保護法を強引に成立させ、14年には歴代政権が憲法上、許されないとしてきた集団的自衛権憲法解釈を変更し、15年に安全保障関連法を成立させた。
共謀罪」の法案審議では参院の委員会採決を省略し、いきなり本会議で可決している。参院の定数増を決めた改正公選法も突っ込んだ議論がないまま、党内の事情を優先して強行採決した。
自民党内には首相や党執行部の方針に異を唱えにくい空気が広がり、活力低下が著しい。官邸の意向が与党の意向となり、国会で十分に審議しないまま法が成立していないか。問われるのは「安倍1強」の政治手法の是非である。
「1強政治」を許してきた野党の責任も重い。有権者に示している選択肢は十分とはいえない。

<野党は具体像示せ>

1人区で共闘して統一候補を立てても、憲法改正の是非や論議の進め方、社会保障の将来設計などを巡る各党の基本的な政策は一致しない。自民は「野合」と批判している。野党は説得力のある説明をしなければ理解は広がらない。
10月の消費税増税は各党とも凍結、中止など方向性は一致する。社会保障や財政の立て直しをどうするか、有権者が納得できる具体的な青写真を示す必要がある。
有権者はこれまでの政治の在り方を踏まえた上で、候補者の「言葉」を吟味し、1票を託す先を見極めたい。