19年参院選 自公が多数維持 課題解決への道筋見えず - 毎日新聞(2019年7月22日)

https://mainichi.jp/articles/20190722/ddm/007/070/040000c
http://archive.today/2019.07.22-010753/https://mainichi.jp/articles/20190722/ddm/007/070/040000c

第2次安倍政権の発足以降、3回目となる参院選が終わった。
自民党は改選前より議席を減らしたものの、自民、公明の与党で参院の多数派を維持した。6年半に及ぶ長期政権に対し、有権者は一応の支持を与えたと言えよう。
ただし、今回の参院選が日本の抱える人口減少や少子高齢化という長期的な課題の解決に資するものだったかというと、心もとない。
衆参の2院制をとる日本で特に参院は「熟議の府」たる役割を期待される。解散のある衆院と異なり、参院議員には6年間の任期が保証されるからだ。政党間の対立とは距離を置き、大局的に政策を論じることが参院選には求められる。

強引な憲法論議避けよ

しかし、長期課題の代表である年金など社会保障改革の論戦も、投票率も、低調なままに終わった。公的年金以外に2000万円必要だと指摘した金融庁報告書をきっかけに将来不安が広がりつつあったにもかかわらず、である。
与党は年金制度の持続性を強調するのに終始した。安倍晋三首相が訴えたのは、アベノミクスで経済を成長させれば雇用が増え、年金の財政基盤も強くなるという理屈だ。
金融緩和と財政出動は目先の経済に対するカンフル剤であり、そのツケを回される将来世代の不安を解消する議論が必要なのに、そこから目を背けたままでは前に進めない。
大半の野党も責任ある財源論を示すことなく、消費増税の中止を主張した。社会保障改革のかみ合った議論がみられなかったのは与野党双方が逃げ腰だったからだ。
首相が自民党総裁に返り咲いた2012年以降の国政選挙は6連勝となった。自民党が大きく議席を減らせば政権がレームダック化する可能性もあっただけに、この関門を越えた首相は今後、長期政権の総仕上げの段階に入る。
そこで首相が強い意欲を示しているのが憲法改正だ。選挙戦では「憲法について議論する党か、しない党か」を繰り返し訴えた。このため憲法論議を進める方針が信任されたと主張することが予想される。
与党に日本維新の会などを加えた改憲勢力としては参院の3分の2を割り込んだものの、首相は憲法論議に積極的な議員のいる国民民主党の協力に期待する発言もしている。
ただ、選挙戦で改憲の中身が議論されたわけではない。首相がこだわる自衛隊明記案に関する情報量は圧倒的に不足しており、公明党は慎重だ。国民民主党も反対している。
憲法は国家の基本法であり、国民投票にかける改正案の発議に衆参両院の3分の2以上の賛成を必要とするのは、大多数の国民の納得を得る熟議が求められるからだ。選挙結果を盾に国会の憲法審査会を強引に運営することは許されない。

半数棄権の危機的状況

選挙戦の焦点は32ある1人区の勝敗だった。維新を除く野党は16年に続き候補者を一本化し、前回に迫る10議席を獲得した。安倍政権の農業政策などに対する不満が東北を中心とした地方に根強い現状を示した。
秋田では「イージス・アショア」配備への反発も自民現職の敗北につながったとみられる。新潟では公共事業をめぐる忖度(そんたく)発言が批判された自民現職が敗れた。それだけ与党支持が消極的なものにとどまっていることをうかがわせる結果だ。
立憲民主党と国民民主党の確執が選挙戦の緊張感をそいだ側面は否めない。立憲単独では議席を伸ばしたが、両党の合計議席では旧民進党が前回獲得した32議席を下回った。
安倍政権下の参院選投票率の低迷が続く背景に、巨大与党を脅かす野党の不在があるのは確かだろう。政治の活力の乏しさが5割を割るレベルまで投票率を押し下げてしまったのではないか。
参院選挙制度が複雑なことも低投票率の要因の一つだろう。選挙区によって改選数は1から6までばらばらで、比例代表では政党名、個人名のどちらでも投票できる。
さらに今回からは選挙区の合区であぶれた自民党の候補者を救済する目的で比例代表に「特定枠」が設けられた。本来は有権者投票権を行使しやすくなるように配慮すべきであり、これでは政党側の都合を優先させた制度の変更だ。
民主主義は国民の全員参加を前提に成り立っている。有権者の半数が投票を棄権する危機的な状況を与野党は深刻に受け止めるべきだ。