条例反対デモ 「撤回」が香港の民意だ - 東京新聞(2019年6月18日)

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香港政府の「逃亡犯条例」改正に反対するデモが拡大し、十六日には主催者発表で過去最大の二百万人近くに達した。香港政府は条例案「撤回」を求める民意に応え、中国もこれを認めるべきだ。
逃亡犯条例が成立すれば、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことができる。民主活動家など中国に批判的な人たちが別件で拘束されることへの懸念が強い。
香港人だけでなく香港でビジネスをする外国人らも、中国共産党ににらまれたら、司法の独立が確立していない中国に連行されかねない。
十六日のデモは、百万人以上が参加した一九八九年の天安門事件の抗議デモをはるかに上回る空前の規模に拡大した。政治的自由が失われるだけでなく、常に中国の顔色をうかがわねば、平穏な暮らしすら守れなくなるとの香港人の危機感の表れであろう。
香港立法会(議会)の民主派議員らは、香港政府が示した条例改正手続き無期限延期の方針を拒否し、「条例案の完全な撤回を求める」とする声明を出した。
香港政府の延期方針には、中国政府が「支持や理解」を表明し、異例ともいえる“譲歩”をした。しかし、それ以降もデモは拡大し、香港の人口約七百五十万人の三分の一近くが抗議に参加した勘定になる。「撤回」要求こそが香港市民の民意であるのは明白だ。
二〇一四年に行政長官選民主化を求めて起こった「雨傘運動」は学者や立法会議員が主導し、学生ら若者が運動の中心を担った。
今回のデモには、これまで政治的な動きに慎重だった一般の人たちも数多く参加した。条例が乱用されれば香港経済が萎縮しかねないとして、立法会などの親中派の間にすら条例成立を不安視する声が出ていた。
雨傘運動よりも、条例反対の動きは香港市民全体に広がったといえる。それは、一四年の「香港白書」で中国が香港の管轄権を強調して以来、「一国二制度」を徐々に骨抜きにしてきたことが背景にある。条例が成立すれば、香港の「高度な自治」はついに瀕死(ひんし)状態に陥るとの認識を多くの香港市民が共有したのであろう。
雨傘運動を率いた一人で「民主の女神」と呼ばれた周庭さん(22)は今月、東京で記者会見し、改正について「政府が反対意見を露骨に消すことを可能にし、香港を完全に中国のものにしてしまう」と批判した。現在の香港の民意を代弁したものといえるだろう。