高校改革 「個性」押しつける矛盾 - 朝日新聞(2019年6月17日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14058788.html
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政府の教育再生実行会議が先月、高校改革の一環として普通科の「類型化」を提言した。
今は学校ごとの特色が薄く、画一的な教育が意欲をそいでいる。そこで、何を重視する高校かを打ち出し、生徒が学ぶ方向性を選択できるようにする。それが提言の趣旨だ。
そして考えられる類型に、内外の課題に対応するリーダーの育成▽科学技術の分野で新発見をする者の育成▽地域の課題の解決――などを例示した。
くわしくは今後、中央教育審議会などで検討するというが、理解に苦しむ構想だ。
各校が個性を発揮するのは良い。だが、上から型にはめこむ「改革」は画一的な教育そのものだ。そこから特色ある高校が生まれるとは思えない。
むしろ必要なのは、理数系教育に重点を置く「スーパーサイエンスハイスクール」など既存の制度も活用しつつ、学校の裁量を広げ、自主性を尊重することではないか。とりわけ考えるべきは、カリキュラムと教材の弾力化である。
文部科学省は学習指導要領に加え、細かな解説を科目ごとに作り、指導方法などを説く。教科書も各社がこれを参照して編集しているのが現実だ。
学ぶべき最低線は国が定めるが、その先は各校の創意にゆだね、多彩な授業を可能にする。その方が独自色が生まれ、生徒の意欲も向上するはずだ。
そもそも自分の特性や志向を探り、可能性を大きく広げる途上にある中3生に、なぜ進路の絞り込みを急がせるのか。
大学では逆に、入試時は文系か理系の大枠を選ぶにとどめ、学部は後で決めるなどの試みが始まっている。様々な学問に触れてから、どの道に進むか判断させよう。そんな考えが根底にある。高校がその逆をいって整合が取れるのか疑問だ。
提言は一方で「文理のどちらかに偏ることなく、バランスよく資質・能力を身につけていくことが重要」とも指摘する。ならばなおのこと、こうした類型化には慎重であるべきだ。
高校の課題を語る際に、ともすれば見落とされてしまうのは職業教育の重要性だ。
高校生全体の2割は卒業後すぐに就職する。普通科の場合、農工商などの専門高校に比べて非正規やアルバイトで働く割合が高い。学習と仕事のつながりが見えにくいのも「意欲をそいでいる」一因ではないか。地元の職業人を講師に招くなど、社会で働くことを思い描ける授業の充実が求められる。
進路も関心も多様な生徒たちにこたえる。そのために意義ある施策は何かを、生徒の立場に立って考えるべきだ。