(余録) 谷川俊太郎さんの詩「くり返す」はこう言う… - 毎日新聞(2019年6月11日)

https://mainichi.jp/articles/20190611/ddm/001/070/164000c
http://archive.today/2019.06.11-012508/https://mainichi.jp/articles/20190611/ddm/001/070/164000c

谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)さんの詩「くり返す」はこう言う。「くり返すことができる/あやまちをくり返すことができる/くり返すことができる/後悔をくり返すことができる」。人はあやまちや後悔をくり返し学んでいく。
詩は続く。「だがくり返すことはできない/人の命をくり返すことはできない」。世の中にはそのあやまちが、くり返せない人の命にかかわる職務がある。幼い子を肉親の虐待から救い出す児童相談所の職員や警察官らもそうである。
むろん人命にかかわる職務は数多い。だが乳幼児にはほとんど世界のすべてである肉親に日々さいなまれる子を救い出す職務に似た仕事はあまりない。そしてまたも幼い子が命を落とす結果を招いてしまったその「あやまち」だ。
札幌市の2歳、池田詩梨(いけだ・ことり)ちゃんが母親と交際相手の男の暴行を受け衰弱死した事件である。事件前に警察は母子と面会したが、事件を防げなかった。児童相談所職員がその時同行しなかった理由の説明は児相と警察で食い違っている。
詩梨ちゃんについては以前も児相に通告があったのに母子に面会できないまま放置し、通告後48時間以内に安全確認をするルールが守られていない。そして今度は教訓を学ぶべき「あやまち」の真相もやぶの中に入り込んでしまった。
あざややけどの痕(あと)がある詩梨ちゃんの体は同年齢の子の半分の重さしかなかった。こんなことがくり返されてはならない。もう後悔を重ねてはいけない。どうか心に刻んでほしい子どもたちの守り手だ。