国有林野法改正 荒廃への懸念が拭えぬ - 北海道新聞(2019年6月7日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/312788
http://archive.today/2019.06.07-011357/https://www.hokkaido-np.co.jp/article/312788

国有林を大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える改正国有林野理経営法が成立した。
伐採期を迎えている国有林に「意欲と能力のある」民間企業の力を投入し、林業の成長産業化を目指すという建前だが、法律の中身には疑問も多い。
最大の問題は、参入業者に再造林の義務がないことだ。木を切るだけ切り、手間のかかる植林は放棄し、後には荒れ山ばかりが残る―。そんな懸念が拭えない。
道内には全国の4割に当たる304万ヘクタールの国有林が集中する。国は、経済性よりも森林の持続性を優先して法を運用すべきだ。
国有林の伐採は従来、1カ所当たり数ヘクタールの面積について、1年ごとの入札で事業者を決めてきた。
来春施行される改正法では、伐採できる面積を数百ヘクタール規模に引き上げた上で、最大50年間の樹木採取権を事業者に有償で付与する。
近年は各国の伐採規制などの影響で原木輸入が減少し、国産材の需要は伸びている。財政難で管理の行き届きにくい国有林を民間事業者に委ね、供給力を高めたいという意図なのだろう。
とはいえ、民間の林業経営体のほぼ9割は中小・零細だ。大がかりな伐採を請け負える業者はおのずと限られる。地元業者よりも、外資を含む大手企業を利する法改正と言わざるを得ない。
国有林には、水源の養成、二酸化炭素の吸収、土砂災害の防止といった多様な機能があることを忘れてはならない。何よりも大事なのは、伐採後の森林を再生し、持続させることである。
再造林については現在、独自の入札を行い、伐採の担当業者とは異なる業者に発注している。
これに対し新制度は、伐採した業者に再造林も任せる。一体で発注した方が「低コストで効率的」というのが国の理屈だが、伐採した業者が植林を怠っても罰則すらないのは理解に苦しむ。
政府は国会審議で「農林水産相が業者に再造林を行うよう申し入れる」と答弁したが、法律で義務化されていない以上、実効性があるとは言えまい。
安倍政権は今回に限らず、沿岸漁業や水道事業などさまざまな分野の「民間開放」を進めている。市場原理に委ねれば問題は解決するという発想は安易にすぎる。
特に森林はいったん荒廃してしまえば、再生は極めて困難だ。時の政権の恣意(しい)的な制度運用によって、国民共有の財産を危機にさらすことがあってはならない。