刑事司法改革 出発点に立ち戻り検証を - 信濃毎日新聞(2019年6月3日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190603/KT190601ETI090001000.php
http://archive.today/2019.06.04-001728/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190603/KT190601ETI090001000.php

冤罪(えんざい)を生む密室での強引な取り調べや、自白を偏重した捜査、裁判のあり方を改めることが刑事司法改革の議論の出発点だった。もう一度そこに立ち戻って検証し、制度の不備を整え直していく必要がある。
取り調べの録音・録画(可視化)が1日から捜査機関に義務づけられた。一方で、電話やメールの傍受(盗聴)は通信事業者の立ち会いなしでできるようになった。2016年に成立した一連の法改定がこれで全て施行された。
可視化は自白の強要や誘導を防ぐ上で重要な意味を持つ。既に、対象となる事件のほとんどで試行され、義務化への移行に大きな支障はなさそうだ。
ただ、義務づけは、裁判員裁判の対象事件と検察が独自に捜査する事件に限られ、全体の3%ほどにすぎない。その上、十分な供述を得られないと判断した場合などには例外を認めている。
また、逮捕前の任意の取り調べは含まない。可視化の本来の目的を踏まえれば、事件を限定し、逮捕の前と後で線を引く理由はない。弁護士を立ち会わせることを含め、適正な取り調べのあり方をさらに検討する必要がある。
もう一つ見落とせないのは、証拠としての位置づけだ。栃木の小1女児殺害事件では、取り調べの録画映像に依拠した一審の有罪認定を高裁が違法と断じた。
映像は強い印象を与え、感覚的な判断につながる危うさがある。不当な取り調べがないか確かめるのには使えても、自白の信用性を裏づける証拠にはならないことを明確にすべきだ。
通信傍受は、対象犯罪を大幅に拡大する規定が既に施行された。窃盗や詐欺も加わっている。今回、事業者の立ち会いを不要にし、専用の機器を置いて警察の施設で傍受できるようになった。
プライバシーや内心の自由を守るため、憲法は「通信の秘密」を侵すことを厳格に禁じている。もともと通信傍受法は、対象犯罪を限定し、立ち会いを義務づけることで成立に至った経緯がある。
その歯止めがいずれも外され、捜査機関への縛りは大きく緩んだ。外の目が届かない場所で不当な運用がされていないかを確かめるすべはない。犯罪捜査を逸脱した情報収集に使われ、市民への監視が強まる懸念も大きい。
運用に目を光らせ、悪用されないよう検証する仕組みは欠かせない。法の見直しを急ぐべきだ。市民の側からも声を上げ、国会や政府に議論を促したい。