取り調べ可視化 対象を拡大するべきだ - 北海道新聞(2019年6月4日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/311643
http://archive.today/2019.06.04-001835/https://www.hokkaido-np.co.jp/article/311643

改正刑事訴訟法の施行に伴い、取り調べの録音・録画(可視化)が試行的な段階を経て、今月から義務付けられた。
捜査機関による自白の強要や供述の誘導などを抑止する効果が期待でき、取り調べをガラス張りにする点で一歩前進と言える。
一方で、課題も少なくない。
義務化の対象は、殺人など裁判員裁判事件と検察の独自捜査事件に限られ、全事件の3%ほどにすぎない。
冤罪(えんざい)を根絶するためには、すべての事件で可視化を実施するのが筋である。
他にも、論点はさまざまに挙げられる。政府や捜査当局は不断の検証を怠らず、適正な取り調べを徹底させなければならない。
可視化の義務付けは、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件をきっかけとする刑事司法改革の大きな柱である。
にもかかわらず、対象事件が限定的だったり、容疑者を逮捕した後でなければ録音・録画されないのは制度の不備ではないか。
強引な捜査がさまざまな段階で行われてきた教訓に照らせば、任意の取り調べも可視化する必要がある。併せて、聴取における弁護士の立ち会いを検討すべきだ。
気がかりなのは、取り調べの映像を捜査機関が「自白の証拠」として利用することだ。
栃木の小1女児殺害事件で、映像をもとに自白の信用性を認めた一審判決に対し、東京高裁は有罪を維持しつつ、映像に基づく判断は主観に左右される恐れがあり「強い疑問がある」と指摘した。
確かに映像の影響力は強烈で、公判での扱い方には慎重さも求められよう。さまざまな事例を積み重ね、一層議論を深めたい。
可視化の義務化とともに、捜査機関による通信傍受のルールが「緩和」された。
これまでは警察が通信事業者に出向いて傍受していたが、警察施設内で、事業者の立ち会いがなくても実施できるようになった。
令状が必要なことに変わりはないものの、「通信内容を厳密に他施設へ送信する技術の進歩」などを口実に、捜査側に都合のいい仕組みに変わった面は否めない。
通信傍受は、憲法が保障する通信の秘密やプライバシーを脅かす危険が常につきまとう。恣意(しい)的な運用がまかり通らぬよう、常に監視の目を光らせる必要がある。
傍受の適法性などを第三者機関がチェックする制度や、国会による厳格な検証が不可欠だ。