取り調べの可視化 刑事手続きをより透明に - 毎日新聞(2019年6月2日)

https://mainichi.jp/articles/20190602/ddm/005/070/030000c
http://archive.today/2019.06.02-013638/https://mainichi.jp/articles/20190602/ddm/005/070/030000c

刑事手続きの改革に向けた改正刑事訴訟法がきのう全面施行され、容疑者に対する取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けが始まった。
裁判員裁判が行われる事件と検察の独自捜査事件が対象になる。
可視化は、刑事司法改革の目玉の一つとして導入された。2010年に発覚した大阪地検特捜部による証拠改ざん事件がきっかけになった。
取り調べは、外部からの連絡を遮断された密室で行われる。そのため、警察官や検察官が自白の強要や誘導をすることが起こり得る。
可視化の狙いは、取り調べの過程を透明化し、法廷での活用など後に第三者のチェックを可能にすることだ。捜査機関にとっても、取り調べの適切さを示すことにつながる。
ただし、課題は残る。
まず、録音・録画を義務付けられる事件が限定されており、刑事事件全体の3%程度にとどまる点だ。冤罪(えんざい)はさまざまな種類の事件で起こり得る。対象となる事件をもっと拡大していかなければならない。
さらに、捜査側の判断で録音・録画しない場合があることも懸念材料だ。例えば記録することによって容疑者が十分に供述できないと捜査機関が判断したケースが該当する。記録するかどうかが恣意(しい)的に決められれば制度は骨抜きになってしまう。
また、録音・録画を始めるのは、容疑者を逮捕した後からだ。逮捕前の任意での取り調べ段階や、別件での取り調べは対象になっていない。過去の冤罪事件を顧みれば、こうした段階でも自白の強要はあり得る。
16年の改正法成立時、参院は付帯決議で、逮捕後以外の場合でも録音・録画をできる限り行うよう捜査機関に求めた。その趣旨を尊重した運用をすべきだ。
取り調べの可視化に先だって昨年から司法取引が始まり、一連の刑事司法改革は一区切りを迎えた。
重要な課題として残っているのが、取り調べへの弁護士の立ち会いだ。容疑者の権利として欧米ではほとんどの国で導入されているが、日本では法制化されていない。早急に議論すべきテーマの一つだ。
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告を巡る一連の事件で、日本の司法手続きが批判を浴びたことを忘れてはならない。