強制不妊「違憲」 真の救済につなげたい - 北海道新聞(2019年5月29日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/309683
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優生保護法下で障害を理由に不妊手術を強制されたとして、宮城県の女性2人が国に損害賠償を求めた訴訟で、仙台地裁はきのう、旧法の違憲性を認めた。
判決は「子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ権)は憲法に照らし、人格権として尊重されるべきだ」と初めて判断した。
旧法を違憲と認めた意味は極めて大きく、国は判決を重く受け止めるべきだ。
にもかかわらず、地裁がこうした権利を認めつつ、さまざまな事情を考慮して原告の請求を退けたのは、疑問が残る。
弁護団は控訴する方針を示している。上級審でさらに審議を深めてもらいたい。
旧法について、地裁は「子を産み育てる幸福の可能性を一方的に奪い去り、個人の尊厳を踏みにじるものであり、誠に悲惨」と認定した。権利侵害の程度も極めて甚大と認めた。
あまりに深刻な被害の実態に照らせば、当然と言えよう。裁判所に求められながら、違憲性の認否をかたくなに避けてきた国の姿勢は不誠実極まりない。
一方で、判決は、日本ではリプロダクティブ権を巡る法的議論の蓄積が少なく、司法判断もなされてこなかったとし、国会による立法不作為の責任を否定した。
加えて、不法行為から20年を経過すると損害賠償請求権が消滅する除斥期間の適用についても、国の主張をほぼ認め、原告の請求を退けた。
判決後、原告の70代女性が「人の人生を奪っておいて、これか」と憤ったのは無理もない。
除斥期間を巡っては、「正義、公平の理念に著しく反する場合には適用しない」と、例外を認めた最高裁判例もある。
甚大な人権侵害を受けた原告たちのケースこそ、こうした例外に該当するのではないか。
しゃくし定規な判断は被害者に寄り添っているとは言い難い。
大事なのは、被害者が納得できる救済に向けて、不断の議論を怠らないことだ。
4月に成立した救済法は、謝罪の主体があいまいで、一時金や救済対象などについても被害者の希望と懸け離れている。
被害者の高齢化は進んでおり、残された時間は多くはない。
課題はなお山積している。司法的な手続きだけではなく、法律の見直しも含め、救済に向けた取り組みを急がねばならない。