天皇の政治利用 憲法を脅かす首相の行動 - 信濃毎日新聞(2019年5月25日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190525/KT190524ETI090011000.php
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日本国憲法上、天皇は国民統合の象徴であり、国政に関する権能を有しない。当然、政府は天皇を政治利用するのは謹むべきだ。
代替わりに伴う一連の行事などで、安倍晋三首相がその原則を脅かす行動を続けている。代替わりや改元に対する祝賀ムードを、政権浮揚につなげる意図があれば憲法違反の疑いが強い。政府は襟を正すべきである。
4月の新元号「令和」の発表では、首相が記者会見し、元号に込めた「願い」を述べた。その後はNHKや一部民放の番組をはしごして、同様にアピールした。
政府は前例踏襲といいながら、「平成」発表時に実施していない首相会見を開いた。元号を政治利用する狙いは明らかだった。
天皇陛下の即位後も同様だ。
14日には天皇が首相から国内外の諸情勢について説明を聞く「内奏」が行われ、その際の写真と映像を宮内庁が公開している。
内奏の内容は第三者に口外しないのが不文律とされ、様子が公開されるのは異例だ。上皇さまの80歳の誕生日に合わせ、2013年12月に公開されたことはあるものの、即日公開は初めてだ。
宮内庁は公開の経緯を明らかにしていない。野党は「説明責任を果たさなければ、天皇の政治利用との批判は免れない」としている。当然だろう。
25日には、即位後初の国賓としてトランプ米大統領が来日する。皇居・宮殿では歓迎行事や両陛下との会見が予定されている。日米の関係強化につなげる狙いが透けて見える。参院選を前に、内閣支持率の上昇にも結び付ける思惑があるのではないか。
天皇が国政に対する権能を持たないのは、先の戦争に対する反省からだ。明治憲法統治権の総攬(そうらん)者だった天皇の名の下に軍部が独走し、悲惨な戦争に突き進んだ。
憲法上、規定された天皇の役割は10項目の国事行為だけだ。上皇さまが続けられた被災地や戦地の訪問などは「公的行為」とされ、憲法に規定されていない。
それでも平和を望み、国民と対話を進めた上皇さまの行動が国民の支持を得て、「平成流」とされた新たな象徴天皇の姿をつくりあげていった。
一方で公的行為の拡大は、天皇の活動を憲法の枠外に広げ、同時に政府による天皇の政治利用の余地を拡大させた面もある。陛下が今後、どのような公的行為をされるのかは分からない。政権がそれを政治的に利用しないか、国民は目を光らせる必要がある。