【私説・論説室から】退廃芸術のレッテル貼りだ - 東京新聞(2019年3月27日)

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芸術に対するナチスの振る舞いを検証した映画「ヒトラーVS.ピカソ」(四月十九日公開)は、文化が政治の介入で翻弄(ほんろう)され、損なわれていく痛ましさを描く。
画家を志していたヒトラーは、故郷オーストリアにパリのルーブル美術館に匹敵する「総統美術館」の建設を計画、ユダヤ人富豪らから古典美術品を収奪していった。
一方で、印象派や抽象画などの近代美術を排斥した。カンジンスキー、シャガール、クレーら名だたる作品も多い。一九三七年にはこれら作品を、さらすかのごとく無造作に展示した「退廃芸術展」を開き、対比するように、肉体美や家族だんらんを描いた作品を集めた「大ドイツ芸術展」を開催した。
美術だけでなく、シェーンベルクなどの現代音楽、ジャズなどにも「退廃芸術」の烙印(らくいん)を押した。
ユダヤ系や反体制的な作家の書物は押収し、焚書(ふんしょ)した。
余計なお世話である。政治には、美醜や価値観を押し付け、人間性を否定する権限まではないはずだ。
ただ、ナチ独裁政権下の野蛮な話、と片付けることもできないと思う。
民主主義の世でも、絶大な公権力が暴走する危うさは、残念ながら消えない。
文化は教育にも直結し、次世代にも関わる話である。警戒は怠るまい。 (熊倉逸男)