(私説・論説室から)国民投票という劇薬 - 東京新聞(2018年10月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2018101002000176.html
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英国と欧州連合(EU)の離脱交渉が行き詰まっている。「合意なき離脱」の場合、企業撤退などの経済的打撃だけでなく、英国からEU加盟国への航空便運航認可手続きの煩雑化など、影響は計り知れないという。離脱を決めた二年前の国民投票なかりせば、との思いを強くする英国民は多いはずだ。
人ごとではない。自民党総裁選で三選を果たした安倍晋三首相は、憲法改正国民投票をと意気込む。民意を直接問う体裁の国民投票だが、危うさがいっぱいだ。国民投票法のCM規制は投票十四日前からの放映を禁じているだけ。民放連もCM量の自主規制はしない方針だ。資金があれば、国会発議から六十〜百八十日の投票運動期間中の大半で、CMを活用して改憲を刷り込むことができる。
英国の国民投票では有料のCMが禁止されている。それでも、「移民が社会保障を食いものにしている」など根拠のあやふやな言説が飛び交い、離脱賛成を後押しした。カネをかければ、もっとバラ色の「離脱後」を脚色することもできただろう。
ドイツには国民投票制度はない。ヒトラーに全権を委ねる「総統職」設置などが、国民投票での圧倒的な支持でお墨付きを得たナチ時代への反省からだ。国民投票は劇薬だ。英国の苦境を肝に銘じたい。もっとも、EU離脱撤回への道を開くやり直し国民投票は、良薬になるかもしれないが。  (熊倉逸男)