[南洋戦国賠訴訟]補償法の制定が急務だ - 沖縄タイムス(2019年3月8日)

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太平洋戦争中に旧南洋群島などで戦渦に巻き込まれた県出身の住民や遺族ら40人が国に謝罪と損害賠償を求めた控訴審判決で、福岡高裁那覇支部(大久保正道裁判長)は原告の請求を棄却した。
判決は一審同様、戦争被害が甚大である事実はほぼ認定した。一方で、大日本帝国憲法下で起きたもので国は責任を負わないとする「国家無答責」の論理を採用した。判決はほぼ一審をなぞる内容でそっけない。
原告の一人、大城スミ子さん(85)は74年前サイパンで7人家族のうち唯一生き残った。こんな苦しいことが二度と起きてほしくないと判決に臨んだが、言い渡しはわずか数秒程度。耳を澄ませて聞こうと体勢を整えているうちに終わってしまった。
「こんなあっけないなんてねぇ」。落胆した大城さんの言葉が、戦後70年以上を経て戦後補償を問う原告の訴えに向き合おうとしない司法の姿勢を表している。
南洋戦・フィリピン戦は国体護持と本土防衛のため、住民をも犠牲にした「玉砕戦」だった。南洋群島などに住んでいた日本国民10万人のうち県出身者は8万人。そのうち2万5千人以上が命を奪われた。戦争孤児となり、戦争体験に起因する「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)を発症した人もいる。
高裁は、こうした被害の実態は認めながらも「戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償の要否や在り方は立法府の裁量的判断に委ねられている」として判断を避けた。司法による救済を放棄したに等しい判示だ。

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同じく戦争被害について国の謝罪と損害賠償を請求した東京大空襲訴訟では、東京地裁が、この問題は立法で解決すべきとの判断を初めて示した。判決を機会に空襲被害者への国家補償を定める立法化を求め、「全国空襲被害者連絡協議会」が発足。補償法案をまとめ早期解決を目指している。
今回の判決では、一審に続き戦後補償についての立法府の責任についても触れられておらず同種訴訟からも後退したと言わざるを得ない。
民間人の戦争被害について国の法的責任を問う訴訟はこの間、各地の空襲被害訴訟をはじめ、戦時中に日本に連行されたとする中国人らによる強制連行訴訟など断続的に提起されてきた。軍人・軍属やその家族、公務員などを手厚く補償した一方、多くの民間人への補償がなされなかったことが背景にある。

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戦後補償について最高裁は、国民全体が共通して受けた被害を甘受すべきとの「戦争損害受忍論」を示しているが、軍人など一部を補償し民間人被害を放置してきた不均衡を見れば、それで片付けられるものではない。
先の大戦で国民は、国家総動員法で戦争協力義務を課された。戦後の相次ぐ提訴をみれば国民が受けた被害の深刻さが分かる。国は戦争を起こした責任に向き合う必要があるし、その責任を問う戦後補償は、戦争を二度と起こさないための未来に向けた手だてでもある。