木村草太の憲法の新手(99)辺野古埋め立て問う県民投票 反対43万票、伸びを評価 - 沖縄タイムス(2019年3月3日)

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2月24日の県民投票では、名護市辺野古の新基地建設に反対の声が投票総数の7割を超えた。その意味はさまざまに論じられているが、「辺野古反対」が圧倒的多数であることが明確になったのは間違いない。
法的観点から考えてみよう。辺野古の埋め立ては、公有水面埋立法に基づき行われる。同法4条によれば、埋め立て許可には「国土利用上適正且合理的」との要件を満たす必要がある。辺野古新基地建設は、米軍普天間飛行場の負担軽減が目的の一つとされていることからすれば、沖縄県民が「負担軽減策として合理的」と判断しているかどうかは、埋め立て許可の適法性判断にとって、重要な要素となる。
反対が7割超という投票結果は、県民が「普天間の負担軽減策として合理的ではない」と見なしていることを示しており、埋め立て許可の適法性判断にも影響があると見るべきだろう。
ところで、「投票率が52・48%と低く、反対票は有権者の3分の1程度にしかならないから、民意とは言えない」という主張も目にする。
しかし、今回の県民投票は、あくまで県知事が「結果を尊重」するだけで(県民投票条例10条2項)、国が「反対多数なら、即座に工事を止める」などと宣言して行われたものではなかった。このため、「反対だけど、投票しても何も変わらない」と考え棄権した有権者もいただろうし、「政府の強行姿勢は変わらないから、工事を容認せざるを得ない」という消極的な考えで賛成票を投じた人もいただろう。
例えば、国が「有権者の50%が反対票を投じた場合には、即座に工事を中止する」と宣言して、県民投票を行えば、投票率は格段に上がったはずだ。今回の投票率・反対票数は、「投票しても工事が止まるかどうかは不透明」という状況の中で、よく伸びたと評価できる。
辺野古反対が民意ではないと言う人は、もっと多くの人が投票する気をおこすように、「反対票が過半数を占めたら、即座に工事を中止するという方針を国に示させた上で、もう一度、県民投票を行うべきだ」と主張してみてはどうか。そのような条件でも、なお投票率や反対票の割合が小さいということになれば、多くの人は、「沖縄の民意は辺野古反対ではない」と納得するだろう。
もっとも、今回の投票結果からは、そうした投票が行われれば、投票率も反対票の数も跳ね上がることが推測される。
最後に、今回の投票結果は、最高裁判事の国民審査にもつなげて行くべきだ。以前、この連載でも扱ったように、2017年の最高裁判事国民審査では、菅野博之裁判官が審査された。辺野古訴訟で翁長雄志前知事の埋め立て承認取消処分を違法とした裁判官である。
菅野裁判官の沖縄県内の罷免投票率は、他の裁判官よりは多かったものの、罷免すべきとした票の数は9万860票にとどまった。これでは、沖縄県内だけで計算しても菅野裁判官を罷免できない。これが今回の反対票に相当する43万票に達していたら、最高裁に対する強烈なメッセージになっただろう。
今後も、沖縄県と国との司法での争いは続いて行く。政治だけでなく、最高裁の動向にも注目してほしい。(首都大学東京教授、憲法学者