<税を追う>官邸主導の「空母化」 首相「専守防衛厳しい」 - 東京新聞(2019年1月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019010402000117.html
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二〇一八年二月、衆院予算委員会専守防衛について質問された安倍晋三首相は「わが国は今後とも堅持していく」と断った後で、自説を披露した。
専守防衛は、純粋に防衛戦略として考えれば大変厳しい。相手からの第一撃を事実上甘受し、かつ国土が戦場になりかねない」
ただしたのは自民党江渡聡徳(えとあきのり)元防衛相。防衛省が導入方針を発表した長距離巡航ミサイルを巡り、「敵基地攻撃が可能で、専守防衛を逸脱する」という批判が出たことを受け、首相の見解を求めたのだった。
ミサイルの射程は九百キロと五百キロ。戦闘機F15やF35Aに搭載する計画で、日本領空や公海上空から他国の領土内への攻撃も可能となる。首相は「敵基地攻撃は目的としない」と否定する一方で、「先に攻撃した方が圧倒的に有利になっているのが現実」と先制攻撃の脅威に言及。あたかも専守防衛では国は守れないといわんばかりだった。
そのころ政府・自民党では、年末に改定する新しい「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」の策定に向けた議論が進んでいた。
「防衛大綱の見直しは小野寺さん(五典・前防衛相)が一七年八月に大臣に就任したとき、総理から言われた。自民党でも、次期大綱がどうあるべきかという議論を始めた」。党の安全保障調査会長だった中谷元・元防衛相はそう話す。
やはり専守防衛との兼ね合いで、導入の是非が焦点となったのが、全長二百四十八メートルの「いずも」型護衛艦二隻の甲板を改修して造る事実上の空母だった。
軍拡を進め、沖縄県尖閣諸島や南西諸島の周辺海域へ進出を図る中国を念頭に、領空・領海侵犯を許さないための防空態勢を強化しようと、まず短距離離陸と垂直着陸ができるSTOVL(ストーブル)戦闘機F35Bの導入案が出たという。
「島しょ部は滑走路の長い飛行場が少ない。STOVL機を導入すれば離着陸できる空港が増えて戦闘機運用の柔軟性が向上する。その上で、対潜水艦哨戒ヘリを運用する多用途の護衛艦にも搭載可能ではないかと議論になった」
中谷氏らは防衛大綱への提言をまとめる際、陸海空の各自衛官からも広くヒアリングしたが、「具体的にいずもの(空母化を求める)話はなかった」。岩屋毅防衛相も昨年末、防衛大綱の閣議決定後の会見で「海自や空自から具体的なニーズや要請があったのではない」と話し、空母化が政治主導だったことを認めた。
防衛大綱や中期防策定へ向け、中谷氏らが「多用途防衛型空母」導入を盛り込んだ提言の骨子をまとめた昨年三月ごろ、防衛省のある幹部は疑問を口にした。
「防衛大綱の度に空母の議論があるが、今回は熱が冷めない。(小野寺)大臣も抑えにかかるのではなく熱心だ。導入するとなれば予算の問題だけでなく人の確保もある。(支出に限りのある)防衛費の枠内で、そこまでやる価値があるだろうか」

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憲法に基づく専守防衛を逸脱する恐れがある空母化計画。急激に膨張する防衛費の問題と合わせ、国民への丁寧な説明は置き去りに日本は周辺国との軍拡競争へ進むのか、検証した。
(鷲野史彦、原昌志、中沢誠、望月衣塑子、上野実輝彦、藤川大樹)