(新防衛大綱)専守防衛のなし崩しだ - 沖縄タイムス(2018年12月19日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/361171
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政府は、新たな防衛力整備の指針となる「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と、大綱に沿って具体的な装備調達を進める次期中期防衛力整備計画(中期防)を閣議決定した。
宇宙やサイバー、電磁波といった「新たな領域」への対処が「死活的に重要」だとして優先的に強化する方針。陸・海・空の従来の領域を含め一体運用する「多次元統合防衛力」の構築を打ち出した。
懸念されるのが中国の海洋進出をにらんだ護衛艦の事実上の空母化である。海自の護衛艦「いずも」を改修し、米国から新たに導入する最新鋭ステルス戦闘機F35Bを艦載機と想定する。同機は短距離離陸・垂直着艦が可能だ。
憲法9条は「戦力の不保持」をうたう。相手国に壊滅的な打撃を与えるような「攻撃的兵器」の保有は「自衛のための必要最小限度」の範囲を超えるとし、歴代内閣は認めていない。例示されているのが「攻撃型空母」だ。
空母は「動く航空基地」といわれ、日本の外洋から戦闘機を飛ばすことができる。空母から離陸して敵基地を攻撃することが可能となり、専守防衛を空洞化させるものだ。
自公はF35Bを常時搭載しないことから「攻撃型空母」に当たらないとして、呼称もいったん「多用途運用護衛艦」と決めた。しかし中期防では従来通り「多機能のヘリコプター搭載護衛艦」と表現している。他国からみれば言葉のごまかしというほかなく、事実上の空母であることに変わりない。
専守防衛の国是から逸脱するのは明らかだ。

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南西諸島防衛の強化も鮮明だ。島嶼(しょ)への侵攻に対処するための陸上自衛隊の「島嶼防衛用高速滑空弾部隊」を2026年度にも新設する。
長い射程を高速で滑空し、目標に命中させるもので、占領された島を奪還するため別の島から攻撃を加える部隊だ。先島など沖縄を含む島嶼地域での配備が念頭にある。
陸自はすでに宮古島石垣島で地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊、警備部隊などの配備に向けて計画を進めている。
離島奪還作戦を担う水陸機動団の2個連隊は相浦駐屯地長崎県)を拠点にしており、3個目が20年代前半に米軍キャンプ・ハンセンを共同使用しての配備が取りざたされる。
米軍と自衛隊の増強が同時に進む。
仮に紛争となれば真っ先に標的になるのは先島を含む沖縄である。配備計画に欠けているのは、島で生活し逃げ場を失う住民の視点だ。

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第2次安倍政権発足以降、防衛費は増大し続けている。
今後5年間の中期防の予算は27兆4700億円に上り、過去最大となった。
装備品も予算も歯止めを失っている。日本への武器売却に熱心なトランプ米大統領の影も見える。
国是である専守防衛の土台が揺らいでいる。政府は閉会中でも国会を開いて国民に説明する義務がある。
日本が果たすべき役割は、中国に自制を促し、軍事力によらずに東シナ海を「平和の海」にする外交努力である。