安保法後の防衛大綱 軍事への傾斜、一線越えた - 朝日新聞(2018年12月19日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13817577.html
http://archive.today/2018.12.18-205121/https://www.asahi.com/articles/DA3S13817577.html

政府がきのう、安倍政権下で2度目となる「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を閣議決定した。
陸海空にとどまらず、宇宙やサイバー空間などを含む「多次元統合防衛力」をめざすとともに、これまで抑制してきた自衛隊の打撃力を拡大する。
こうした防衛政策の転換をさらに推し進めれば、不毛な軍拡競争に道を開きかねない。
年明けの通常国会で、徹底的な議論が必要だ。

■「盾」から「矛も」へ

政権発足1年後の2013年末、初めての国家安全保障戦略(NSS)とともに決めた前の大綱は、向こう10年を見通して策定したものだ。
これを5年で前倒し改定するのは、16年の安全保障関連法の施行を受け、軍事への傾斜を強める意図がうかがえる。
見過ごせないのが、自衛隊の打撃力の格段の強化だ。
憲法9条のもと、日本は専守防衛を原則としている。他国から攻撃を受けた場合、自衛隊が「盾」となって防御し、「矛」の役割を担う米軍が反撃するのが役割分担だ。
より多くを日本に求める米国の意向を受け、自衛隊の攻撃的な能力は少しずつ整備されてきたが、今回は一線を越えたと言わざるをえない。
「空母」の導入だ。
ヘリコプターを搭載する海上自衛隊の「いずも」型護衛艦を改修し、短距離で離陸し、垂直着陸ができる米国製の戦闘機F35Bが使えるようにする。
政府はかねて、自衛のための必要最小限度を超える攻撃型空母は憲法保有できないとしてきた。改修後のいずもは戦闘機を常時艦載しないので、「空母」に当たらないと説明するが、詭弁(きべん)というほかない。
将来的には、南シナ海やインド洋、中東に派遣され、米軍機の給油や発着に活用される可能性も否定できない。
相手の射程の外から攻撃できる長距離巡航ミサイル保有も記された。政府与党は、自衛隊員の安全確保が狙いと説明しているが、敵基地攻撃能力の保有につながる。
専守防衛は変わらない」との意図を政府与党は強調しているが、その能力をみれば、従来の「盾」から「盾も、矛も」への転換は明らかだ。

■宇宙・サイバーまで

大綱の主眼は、北朝鮮ではない。軍拡を進める中国の脅威への対処にある。
北朝鮮のミサイル危機のさなかに決めた陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入を追認したのは、中国のミサイルに対抗する狙いがあるためだ。
だが、巨額の投資に見合う効果があるのかは疑わしい。政府は導入を再考すべきだ。
たしかに、ミサイル対処をはじめ、軍事技術の急速な進展への対応は必要だろう。
宇宙やサイバー、電磁波といった分野は、現代の安全保障にとって、死活的といえるほど重要性を増している。その現実は受け止めねばならない。
大綱には宇宙領域専門部隊の創設や宇宙状況監視(SSA)システムの整備、サイバー防衛隊の拡充が盛り込まれた。
ただ、日本の防衛政策の原則を踏まえ、自衛隊がどこまで対応すべきか。法的にも能力的にも難しい問題をはらむ。
宇宙空間での監視能力の強化は、目標を特定し攻撃する能力に重なる。サイバー空間での攻撃と防御の関係をどう考えるのかについても、慎重な検討が必要だろう。

■政治的な対話こそ

中期防が示した5年間の防衛費は過去最大の27兆4700億円。政府はコスト削減などで25兆5千億円に抑える方針だが、ほんとうに実現できるのか。
急速な人口減少と少子高齢化、厳しい財政事情という日本の現実から目を背けてはならない。性急な防衛費の拡大は、国民の理解を得られまい。
もとより、自衛隊ができることには限界がある。身の丈に合った安全保障を構想しなければならない。
それなのに、トランプ米大統領の求めに応じた米国製兵器の大量購入が防衛費を圧迫している。米国製のステルス戦闘機F35は、いずもで運用できるB型を含め、計105機を追加購入する。その総額は1兆2千億円に上る見通しだ。
最新鋭の兵器を買いそろえることが、日本の安全保障にとって真に有効な処方箋(しょほうせん)なのか。政府はもう一度、考えるべきだ。
国連のグテーレス事務総長は5月に発表した「軍縮アジェンダ」で、こう指摘している。
「高まった緊張や危険は、真剣な政治的対話や交渉によってのみ解決できる。兵器の増強では決して解決できない」
軍事に過度に頼ることなく、外交努力を通じて緊張を緩和し、地域の安定を保つ――。いま必要なのは、総合的な安全保障戦略にほかならない。