「新時代」への指針《2》 多文化共生の土壌育もう - 北海道新聞(2019年1月3日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/263798
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日本で暮らす外国人が、増え続けている。
経済協力開発機構OECD)の統計では、2016年の日本への移住者は42万人を超えた。加盟35カ国でドイツ、米国、英国に次いで4番目に多い。
法務省によると、在留外国人は18年6月末時点で約264万人に上っている。
一方、外国人労働者の雇い止めや不法就労のトラブルが各地で起きている。技能実習生を巡る低賃金や長時間労働の横行といった問題も明らかになった。
なのに、政府はこうした事態を正面から見つめないまま、入管難民法を改正し、4月から新在留資格による外国人労働者の受け入れを拡大することを決めた。
理由は「人手不足」である。
日本に呼び込む外国人を「人」ではなく、「労働力」としてしか見ていない。そう批判されても仕方なかろう。
これでは「選ばれる国」にはなり得ないのではないか。
まず必要なのは、外国人と日本人が共に暮らす多文化共生社会づくりの視点である。

■問題多すぎる改正法

改正法に基づく新資格の特定技能1号について、政府は5年間で34万人の取得を見込んでいる。
在留期限は5年で、実習生から移行すれば最大10年滞在できる。
ただ、人手不足が解消すれば、受け入れを停止することができる仕組みになっている。しかも家族は帯同できない。
熟練技能が必要な特定技能2号は、期限が更新できて家族を帯同できるが、極めてハードルが高い。事実上、家族と一緒に暮らすことを拒絶する姿勢が見える。
同じ社会で生活する隣人として迎え入れる姿勢が欠けている。
日本で生活するには、最低限の会話が不可欠だ。医療や社会保障、住宅、労働などさまざまな権利を保障する必要もある。
ところが、改正法はその手段を政省令に委ねた。昨年まとめた総合的対応策も不十分だ。
これでは労働者はもちろん、同じ地域で暮らす人々や雇用する側の不安も解消できまい。
さらに問題なのは実習生の問題が置き去りにされていることだ。
ブローカーに多額の保証金を支払って来日し、劣悪な労働に苦しみ、失踪者も後を絶たない。
17年までの8年間に事故や自殺などで174人が死亡したことが法務省の調査で分かっている。
新制度では、実習制度と同様「日本人と同等以上の報酬」と定めるが、説得力がない。人権上の観点からあまりに問題が多すぎる。

■種まく努力欠かせぬ

政府の泥縄式の対応に比べ、多文化共生に取り組む先進的な自治体もある。
上川管内東川町の日本語学校は15年開校の全国初の公立校だ。
09年から始めた日本語研修を含めると、ここで学んだ人は18カ国・地域のべ約2800人に及ぶ。
町の目標は、世界に開かれた町だ。手厚い奨学金で留学生を支え、町の魅力を知ってもらい、気に入ったら定住してもらう。
交流人口が増えれば、地域経済の活性化にもつながる。
5カ国に町の現地事務所を置き、悪質なブローカーの介在や出稼ぎ留学生を防ぐ。地に足のついた政策展開と言える。
重要なのは、町民も外国人から学ぼうとしている点だ。
国際交流員や留学生と海外の料理を作るイベントや外国語講座などに参加し、4歳児から高校生まで異文化理解を深める独自の教科「グローブ」の授業を受ける。
町への定住者や、ホテルやメーカーなどで働く人も出てきた。
こうした種を地道にまき続ける努力が欠かせない。
川崎市では、外国人市民代表者会議を設置し、その政策提言を生かして外国人の入居差別を禁じる条例などを実現させた。
外国人の声をまちづくりに反映させる意欲的な試みである。

■多様性は活力の源泉

大切なのは、多文化共生社会の土壌を育むことだ。
日本人と外国人が互いに尊重し合い、共により良い社会を築く構成員と捉える必要がある。
多様性のある社会は、異なる文化を融合させ、創造力豊かな人材を生む源泉となろう。
閉塞(へいそく)感を打ち破り、政治や企業、文化、スポーツなど各界に新しい風をもたらす。
少数者の暮らしやすい多文化共生社会は、誰もが暮らしやすい社会にもつながる。
移民の問題も、国会などで正面から議論する必要があろう。
財界の求めに応じて「安価な労働力」として外国人を受け入れる一方、「移民政策ではない」と建前を唱え続けるだけでは、共生はいつまでも実現しない。