木村草太の憲法の新手(94)辺野古での土砂投入 国の違法行為、全国に危機 - 沖縄タイムス(2018年12月23日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/362924
https://megalodon.jp/2018-1223-0954-05/https://www.okinawatimes.co.jp:443/articles/-/362924

12月14日、防衛省沖縄防衛局は、辺野古での土砂投入に着手した。土砂投入に批判の声は強く、法的にも重大な問題がある。
今年9月31日、県は辺野古埋め立てのための公有水面埋立承認処分を正式に撤回した。7月に撤回を表明した記者会見で、翁長雄志前知事が示した撤回理由は、次のようなものだ。
まず、公有水面埋立法4条1項2号は、埋立承認条件として、「環境保全及災害防止ニ付十分配慮」されたものであることを求める。これを受け、埋め立て承認には、事前に実施設計・環境保全対策の協議を行うとの留意事項が付されていた。
しかし、「沖縄防衛局は、全体の実施設計や環境保全対策を示すこともなく公有水面埋め立て工事に着工し、また、サンゴ類を事前に移植することなく工事に着工するなど、承認を得ないで環境保全図書の記載等と異なる方法で工事を実施しており、留意事項で定められた事業者の義務に違反」した。
また、C護岸(水の浸食を防ぐ工作物)の設置箇所に軟弱地盤があり倒壊の恐れがある。さらに、17年6月6日、稲田朋美防衛大臣(当時)は、国会答弁で、仮に埋め立てが完成しても、滑走路の長さの関係で、もろもろの調整が整わない限り普天間飛行場が返還されない可能性があることを認めた。
これに対し、防衛省は、行政不服審査の手続きに則り、国土交通省に撤回の効力停止を求めた。今年10月30日、石井啓一国土交通相は、普天間返還が遅れるなどの理由で、効力停止を決定した。
しかし、そもそも普天間が返還されない可能性が指摘されているのだから、撤回無効の理由は説得的でない。さらに、行政不服審査は、「国民が簡易迅速かつ公正な」不服申し立てをするための制度(行政不服審査法1条)であり、「国の機関」が「その固有の資格」において受ける処分には適用されない(同法7条2項)。この点は、著名な行政法学者たちが、「公有水面埋立法における国に対する公有水面の埋立承認制度は」「国の法令順守を信頼あるいは期待して、国に特別な法的地位を認めるもの」として、「一般私人と同様の立場で審査請求や執行停止申し立てを行うことは許されない」と強く非難する声明を出している。
このように現時点での土砂投入は違法行為だ。玉城デニー知事が、「工事の権限のない者によって違法に投入された土砂は、当然に原状回復されなければなりません」と言うのも当然だろう。
全国世論調査では、辺野古基地建設について賛否拮抗(きっこう)の状況が続いてきたが、今回の土砂投入には反対の声が強い。共同通信の15、16日の調査では、土砂投入について、支持が35・5%に対し、不支持は56・5%に上った。これまで漠然と政府方針に賛成していた人の中で、土砂投入の現場写真などを見て、何が行われようとしているのかをリアルに考える人が出てきたということだろう。
大浦湾の良好な環境や生態系の維持は、沖縄のみならず、日本全体にとっての公共的な価値がある。また、地方の意思を無視して基地建設が強行された前例を作ることは、全国の自治体にとって脅威である。
今回の土砂投入は、沖縄だけではなく、全国民にとっての危機だ。(首都大学東京教授、憲法学者