[撤回停止 県が国提訴]忖度せず公正な審理を - 沖縄タイムス(2019年3月23日)

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辺野古新基地建設を巡り、県の埋め立て承認撤回の効力を一時停止した国土交通相の決定は違法として、県が決定の取り消しを求めて福岡高裁那覇支部に提訴した。
玉城デニー知事は県民投票で示された新基地建設「反対」の圧倒的な民意や、断念を求める大規模な県民大会を踏まえ、話し合いによる協議を提起してきた。しかし安倍晋三首相は、「真摯(しんし)に受け止める」という言葉とは裏腹に強行一辺倒の姿勢を変えない。
19日の首相との会談翌日に、政府が予告していた通り、25日に新しい区域へ土砂投入を始めると県に通告したため提訴に踏み切った。
提訴までの経緯が複雑なので、振り返っておきたい。
翁長雄志前知事の急逝後、県が埋め立て承認を撤回したのが昨年8月。防衛省沖縄防衛局が行政不服審査法(行審法)を使い執行停止を求め、国交相が10月、これを認める決定をした。県は11月、総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会(係争委)」に申し立て。係争委は今年2月、審査対象に該当しないとして却下の決定を下した。
玉城知事はそれでも「埋め立て承認の撤回は有効」と主張している。安倍政権が話し合いに応じず、提訴はやむを得ない。ハワイ出張中の玉城知事は「対話による解決の必要性と重要性を強く求めてきただけに極めて遺憾である」とのコメントを発表した。
首相との会談で玉城知事は岩礁破砕を伴う工事の差し止めを求め上告中の訴訟を取り下げる方針を伝えている。県民への丁寧な説明が必要だ。

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争点は、防衛局が行審法に基づき執行停止を申し立てたのに対し、国交相がこれを認めた決定の是非である。
行審法は、行政機関から権利を侵害された一般私人を救済するための法律である。さらに公有水面埋立法では、私人と国は明確に区別されている。私人は県から「許可」を受け、国は「承認」を受けなければならない。防衛局が受けたのは「承認」である。
国が行政不服審査制度を用いるのは制度の趣旨をねじ曲げるものだ。多くの行政法学者が「国民のための権利救済制度の濫用(らんよう)」と批判したことからも明らかだ。
しかも国交相安倍内閣の一員である。防衛局は同じ政府を構成する国の機関であり、身内同士というのも不公正だ。県が「自作自演の極めて不当な決定」と批判するのはこのためである。高裁には司法の独立にかけて忖度(そんたく)せず、公正な審理を求めたい。

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新基地を巡り問題が噴出している。新たに発覚した軟弱地盤、改良工事のために打ち込む約7万7千本の砂杭(すなぐい)、新基地周辺に走る二つの活断層、国の天然記念物のジュゴン1頭が死骸で見つかり、残り2頭の行方がわからない。
環境アセスメントを最初からやり直さなければならない事態である。工期も総事業費も明らかでない。普天間飛行場の一日も早い危険性除去のために新基地建設という論理は破綻しているのだ。このまま工事を強行するのは無謀だ。安倍政権は工事を止め、話し合いに応じるべきである。