<性教育をかんがえる> (上)学校が性交を「教えない」弊害 - 東京新聞(2018年11月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201811/CK2018112002000180.html
https://megalodon.jp/2018-1120-0923-02/www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201811/CK2018112002000180.html

予期しない、望まない妊娠によるとみられる中絶や虐待死が後を絶たない。妊娠にまつわる相談を受け付ける一般社団法人「にんしんSOS東京」副代表理事で、助産師の土屋麻由美さん(55)は「事態を防ぐには正しい知識を幼少時から教えることが大切」と訴える。学校での性教育の不十分さも指摘する。 (小形佳奈)
厚生労働省によると、昨年度の二十歳未満の人工妊娠中絶件数は一万四千百二十八件。昨年一年間に、二十歳未満の母親から生まれた子どもの数九千八百九十八人を上回る。
赤ちゃんの命が奪われる虐待死もなくならない。二〇〇七年から昨年三月までに十代で妊娠した母親から生まれ、虐待死した子どもは百十一人。最も多いのが生まれたその日に亡くなるケースで、二十五人がトイレやロッカーに遺棄されるなどして命を落とした。
にんしんSOS東京は避妊や思いがけない妊娠などに関する相談を受け付けている。年代別でみると、十代と二十代の相談がそれぞれ35%ずつになっている。
相談業務を通じて土屋さんが感じるのは、若い世代の性知識の乏しさだ。「下着を着けたまま性器と性器をこすりつけたが妊娠するのではないかと心配」と質問してきたり、生理周期という言葉も排卵の時期に妊娠することも知らない大学生がいたり。
その理由は「学校での性教育が不十分なため」という。現行の中学校の学習指導要領では、生殖能力が備わる思春期の子どもに、排卵や受精の意味を教える一方、「妊娠の経過は取り扱わない」とする「はどめ規定」を設ける。「つまり『性交は教えない』ため、子どもたちは性成熟に伴う適切な行動とは何かを具体的に考えられない」と土屋さんは話す。
指導要領に示されていない内容も指導できるが、東京都教育委員会が八月に都内の公立中学校など六百二十四校の校長に行った性教育の実施状況調査では、要領に示されていない内容を指導したのは五十五校(9%)。うち性交に触れるのは三校、望まぬ妊娠に触れたのは二校だった。
「教えると性交をかえって助長する」との指摘もあるが、「教えないと、インターネットのアダルトサイトなどで得た誤った性知識のまま、デートDVや望まぬ妊娠など悲惨な結果を招きかねない」。性交や妊娠の仕組みだけでなく、お互いの性的同意、相手への思いやりも含めた人権教育としての性教育の必要性を説く。
土屋さんは「子どもの成長に応じ、少しずつ教えることが大切」と話す。具体的には、幼少時から「自分を大切に」と家族が教える▽水着で隠れる「プライベートゾーン」をむやみに人に見せたり、触らせたりしない▽逆に相手のものを勝手に触ってもいけない▽嫌なことは嫌と言う−などがある。
大人自身がセクシュアリティー(性のあり方)を学んでいないから、子どもたちにどう教えていいか分からない。土屋さんは「国民すべてに性教育が必要なんです」と訴えている。
「にんしんSOS東京」への相談は無料。

詳細はホームページ
https://nsost.jp/

二十三日の(下)では、親子で性についての正しい知識を本で学ぶ取り組みを紹介する。