<ひと物語>笑って過ごせる場に 中国残留邦人専用デイサービス開所・上條真理子さん:埼玉 - 東京新聞(2018年9月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201809/CK2018092402000124.html
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日本語を話せない中国残留邦人専用のデイサービス施設として、所沢市の上條真理子さん(40)が今夏、自宅を改修、提供して開所した「一笑苑(いっしょうえん)」。昼食前の一時、リビングから笑い声が響く。通所するお年寄りたちが、中国語の「イー(一)」「アー(二)」という掛け声とともにリハビリを兼ねた体操をし、小物作りを楽しむなどしていた。
「これまで日本の施設にいて言葉が通じず、つらい思いをした方が多い。ここでは笑って過ごしてほしい。施設名にもその思いを込めた」。仲間とともに施設を運営する上條さんが目を細めて語った。
利用者は七十五〜九十歳の男女七人。いずれも二十〜三十年ほど前に中国から帰国した残留邦人一世たちだ。施設スタッフは日本国籍を取得した中国出身者や、中国からの看護留学生らで中国語が堪能なため、利用者は日頃の不安などを気軽に相談できる。
上條さん自身も残留邦人二世。十七歳で一世の父充彦さん(80)ら家族四人と日本へ移り住んだ。「日本語が分からないまま入学した定時制高校では、いつも独りぼっち。言葉が通じないつらさは痛いほど分かる」
支援者に用意してもらった参考書で日本語を学びながら、介護の道を目指したという。きっかけは日本で充彦さんが脳梗塞を患い、不自由な体になったこと。「介護を知れば親孝行ができる」と考えた。
充彦さんは当初、日本のデイサービス施設に通所。ある日、持病の胸の痛みを覚えたが、日本人スタッフに症状を伝えられずに危険な状態に陥りかけた。
所沢にはかつて、中国からの帰国者が日本語や生活習慣を学ぶ施設があり、今も多くの残留邦人が暮らす。上條さんは、充彦さん同様、施設で日本語ができずに落ち込んだり、危険にさらされたりした人が少なくないと知り、二年前に残留邦人のための訪問介護サービスを開始。デイサービスの一笑苑はその延長線上に立ち上げた。
それでも、まだ道半ばだと考えている。「一世はますます年を取る。五十代が中心の二世も間もなく介護が必要な年代になる。みとりまで世話をする入所型の特別養護老人ホームが求められる時代が来る」
資金をどのように捻出するか。収支がぎりぎりの一笑苑で貯金を積み立てることはできそうにない。
「一世が生きられる時間には限りがある。最期まで笑って過ごせる環境をつくらせてほしい」。上條さんは広く支援を呼び掛ける。問い合わせは一笑苑=電04(2944)8181=へ。 (加藤木信夫)

<かみじょう・まりこ> 中国山東省生まれ。中国残留邦人2世。17歳だった1995年、1世の父、中国籍の母、2歳年上の兄とともに来日。介護の訪問サービスに従事しながら2011年に介護福祉士、13年にケアマネジャーの資格を取得。所沢市の自宅を提供して残留邦人専用のデイサービス施設「一笑苑」を設立し、今年7月に運営開始。