文書が明るみに出した 加計学園と首相官邸の“関係” - AERA dot. (2018年9月18日)

https://dot.asahi.com/dot/2018091500009.html?page=1

朝日新聞取材班が、森友学園加計学園問題報道の「中間報告」として、『権力の「背信」――「森友・加計学園問題」スクープの現場』(朝日新聞出版)を出版した。

加計学園獣医学部新設をめぐって、政治・行政の手続きは公平・公正に行われたのか。朝日新聞東京社会部デスクとして一連の取材に携わってきた西山公隆(現・文化くらし報道部生活担当部長)が、その取材の一端を紹介する。

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加計学園問題では、愛媛県今治市が公開した文書で、市の企画課長や課長補佐が2015年4月、「獣医師養成系大学の設置に関する協議」を目的に首相官邸を訪問したことがわかっていた。自治体の課長らが一大学の学部新設の件で首相官邸を訪問すること自体が異例なことだけに取材班はここに注目した。だが、面会の相手が官邸のだれだったのかは、その時点では確定的にはわかっていなかった。
だが、面会の事実関係は、取材班とはまったく無関係だったある一人の記者が聞き込んできた話から意外な展開をたどり、スクープに結びついた。

「ちょっといいですか。話があるんですが」

17年7月ごろ、社会部デスクだった私は、ある記者に声をかけられた。面識のある記者ではあるが、そのときは仕事で直接の関わりはなかった。

「いったいなんだろう」。記者の表情の真剣さに、私は社会部から少し離れた廊下に置かれたテーブルに移った。そして、記者が聞き込んできたという話に驚いた。

今治市の課長らが首相官邸を訪れた際、面会には加計学園の事務局長が同行し、しかも、面会の相手は柳瀬唯夫首相秘書官(当時)だったというのだ。一学校法人の学部新設という話に、当事者中の当事者である学園の幹部が同行し、しかも、首相と日常的に接し、側近中の側近である首相秘書官が官邸で会っていたとなれば、大きなニュースだ。

「そんな話があるのだろうか」。私の心には一瞬、そんな思いもよぎったが、目の前にいるこの記者の人脈、信頼度からして間違いない話だと直感した。取材班は早速、この話の裏を取る取材を始めた。


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取材は、東京社会部で調査報道班のキャップを務める木原貴之と、中堅の岡戸佑樹が中心になり、政府関係者だけでなく、愛媛県今治市など地元関係者にも当たった。木原も岡戸もこうした裏取り取材には慣れている。だが、関係者の口は重く、職場や自宅を訪ねても居留守や取材拒否が多かった。取材の趣旨を伝えようとしただけなのに、怒り出してそのまま自宅へ入ってしまう人もいた。
「このままでは、東京に帰れないな」。愛媛県内での取材を終え、夜遅くになって食事を取りながら、木原は岡戸に冗談めかして言ったが、二人の本音でもあった。取材は難航していた。
しかし、永田町・霞が関を含めた多くの関係者を回るうちに、一部の関係者が軟化し始めた。
8月のある日、岡戸の携帯電話が鳴った。面会の経緯を知りうる人物で、何度か接触を試みていた。岡戸は改めて、面会には加計学園の幹部が同席していたのか、面会の相手は柳瀬秘書官だったのか問うた。この人物は最初こそ、言葉を濁していたが、最終的にはこうした事実関係を認めた。岡戸は電話を切ると、「認めましたよ」と真っ先に木原に電話を入れた。時を同じくして、別の人物への取材にも成功し、複数から面会に関する確認が取れた。あとは、当人である柳瀬氏本人に話を聞かなくてはならない。木原ら取材班は、東京都内にある柳瀬氏の自宅周辺で直接、本人を取材することにした。
8月9日、その日の最高気温は東京都心で37度にまで上がり、気象庁は「不要な外出を控えるよう」呼びかけていた。体調管理のため、複数の記者が交代で柳瀬氏を待ち続けた。
午後1時ごろ、自宅近くに黒塗りの車が現れ、柳瀬氏が降りてきた。その時間の張り番だった木原は柳瀬氏に近づき、これまでの取材で確認した事実関係を柳瀬氏にぶつけた。
柳瀬氏は「前に(国会で)話した通りです」などと話し、自宅へ入ったが、再度、外出するようだった。木原の連絡で休憩から駆けつけた岡戸も加わり、柳瀬氏を待った。



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自宅から出てきた柳瀬氏と木原らとのやりとりの一部は次の通りだ。

木原 「この訪問には加計学園の事務局長も同席していた。それも記憶がないか」
柳瀬氏「加計? いやあ」

木原 「加計学園の事務局長と会ったことは?」

柳瀬氏「加計さんと総理が会うときには秘書官はいる。でも、いずれにしても記憶にない」

木原 「われわれの取材は間違いということか」
柳瀬氏「うーん、覚えてない。いっぱいいろんな人と会うから、秘書官は」

私たちは面会をめぐる確認できた事実関係を基に、17年8月10日付朝刊1面トップで<首相秘書官、加計側と面会 15年4月 新学部提案前 官邸で>という見出し(東京本社最終版)で報じた。柳瀬氏の言い分も、見出しを立てて掲載した。

それから約8カ月後、取材班は、この面会の中で柳瀬氏が、獣医学部新設について「この件は、首相案件」と発言したと記録された愛媛県の文書を新たに入手。18年4月10日付朝刊1面トップで報じた。これを受け、18年5月10日に開かれた衆院予算委員会に出席した柳瀬氏は、「加計学園の事務局の方から面会の申し入れがあり、その後の報道などを拝見すると、おそらくこれが4月2日だったのではないかと思うが、加計学園の方、その関係者の方とお会いした」と述べ、加計学園側と面会していたことは認めた。愛媛県今治市職員が同席していたかどうかについては、「今でも分からない」とする一方、「一連の報道や関係省庁による調査を拝見すると、随行者の中にいらっしゃったのかもしれないな、というふうに思う」と述べた。

加計学園獣医学部新設をめぐる報道では、関係者から「記憶にない」といった答弁やコメントが繰り返された。だが、取材を続けることで、新たな事実が明らかになり、問題の背景や構造がより鮮明になる。今後も、「事実」に真正面から向き合い、報道を続けていきたい。(朝日新聞文化くらし報道部生活担当部長・西山公隆)