http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201808/CK2018081902000140.html
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明治期につくられた民間の憲法草案「五日市憲法」が東京都五日市町(現あきる野市)の土蔵で発見されてから、今月二十七日で五十年となる。発見のきっかけとなったのは、明治以降百年間の日本の歩みを賛美する政府の歴史観への疑問。この憲法を土蔵の中で最初に手にした新井勝紘(かつひろ)・元専修大教授(74)は、今の明治百五十年関連施策も輝かしい発展を強調するばかりで、戦争への反省がないと警鐘を鳴らしている。 (高山晶一)
新井さんによると、土蔵調査のきっかけは五十年前の「明治百年論争」。佐藤栄作首相(当時)らが、西欧に追いつき追い越そうと励んだ百年間をたたえて多くの記念事業を行ったのに対し、「戦争を繰り返してきた百年間が、国を挙げて祝う歴史なのか」との反論が出ていた。
東京経済大四年生だった新井さんが所属する色川大吉ゼミ(日本近代史)も、この問題に直面。「地域で暮らす人たちの視点で百年を検証しよう」と、「開かずの蔵」といわれていた旧家の土蔵を調査し、出てきたのが五日市憲法だった。
卒業後、生涯をかけて五日市憲法の研究を続ける中で見えてきたのは、五日市憲法に豊富に書かれているような自由や国民の権利を、当時の人たちが切望していたこと。「明治政府はそうした声にまったく耳を貸さず、大日本帝国憲法を天皇の名において制定し、国民に押し付けた。以後、近代天皇制の下で軍国日本が形成され、戦争に突き進んだ歴史をきちんと見なければならない」と新井さん。
佐藤栄作を大叔父とする安倍晋三首相は明治維新から百五十年の今年、明治期に度々言及し「近代化を推し進め」「独立を守り抜いた」と高く評価。明治の人たちの功績を伝える多彩な関連施策が、全国で実施されている。
政府がまとめた関連施策の「基本的な考え方」も、明治以降の日本が「技術革新と産業化」や「教育の充実」に取り組んだと指摘。「明治の精神に学び、更(さら)に飛躍する国」を目指すとしているが、戦争など負の歴史には一切触れていない。
新井さんは「明治百年のときと似ている」と指摘。「日本はずっと戦争の総括が中途半端。『悪いところをほじくり返さなくても』と言って明るいところだけ見ようとするが、いいとこ取りの歴史では同じ過ちを犯す。負の歴史もちゃんと見ることが、歴史に学ぶということだ」と訴える。<五日市憲法> 大日本帝国憲法(旧憲法)の制定前、全国でつくられた民間の憲法私案の一つ。元仙台藩士の千葉卓三郎らが中心になって作成したが、旧憲法に反映される機会はなかった。正式名は「日本帝国憲法」で、全204条。国民の権利保障に力点を置いたのが特徴で、今の日本国憲法に近い内容が盛り込まれているといわれる。東京都文化財。
- 作者: 新井勝紘
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2018/04/21
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