(筆洗)沖縄戦が終わって七十三年の慰霊の日だ - 東京新聞(2018年6月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018062302000163.html
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記憶は古いほうから順に消えていくわけではもちろんない。年を重ねて、子どもの頃に負った心の古傷が突然開くことがある。戦争の傷ならば、それは強く痛むだろう。:
八十八歳の内原つる子さんは五十代で、足が燃えるように痛んだ。沖縄戦で米軍の機銃掃射の中、母とともに死を覚悟しながら逃げている。途中、遺体を踏んだ。その感触が心の中に残っていた。幼児を見かけながら助けられなかった後悔も。痛みは「天罰だ」と悩んだ。
沖縄戦の心の傷に原因があると診断されたのは後のことだ。そこから痛みは和らぐ。昨年出版された『沖縄からの提言 戦争とこころ』には、内原さんのような例がある。診察した精神科医、蟻塚(ありつか)亮二さんによると、高齢になってから、再び苦しみ、心身を病む人も多い。「戦争は過去のものではない」
沖縄戦が終わって七十三年の慰霊の日だ。沖縄県民四人に一人が犠牲になり、生き残った人たちも多くが心身に傷を負った。戦争を直接知る人は少なくなっている。今も痛みを感じる人がいることも、わが国でどれほど意識されているか。
暗いニュースが心の傷が開くきっかけになるという。基地問題では、沖縄の負担が、軽くならない。米軍機を巡る事故も絶えない。
「『もう安心していいよ、おばあちゃん』と言える世の中にならないと癒やされない」。蟻塚さんの言葉をかみしめる。