米朝首脳会談  非核化の意思を現実に - 東京新聞(2018年6月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018061302000141.html
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焦点の「非核化」に進展は見られなかった。だが、緊張を再燃させてはならない。米朝首脳は対話を重ね、実行に向けた協力を進めてほしい。
七十年間にわたり対立していた米朝の首脳が会談するとあって、世界がシンガポールを見つめた。
会談に入る前、トランプ米大統領は「大きな成功を収める」と自信を見せた。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長も、「われわれは全てを乗り越えてここに来た」と応じた。
当初は硬い表情だった二人は、言葉を交わし、握手して打ち解けていった。多くの人が交渉の行方に、希望を感じたのではなかったか。

◆対立から対話への転換
両首脳が出会い、率直に語りあったことは、朝鮮半島で続いてきた対立を和らげ、対話局面に転換させる機会である。
米朝両国の対立は、北朝鮮建国の一九四八年にさかのぼる。直接戦火を交えた朝鮮戦争(五〇〜五三年)を経て、この二十年ほどは、核問題をめぐる緊張と確執が高まった。
トランプ氏と正恩氏も激しい言葉のやりとりをし、武力衝突の危険さえささやかれた。
会談の最大のテーマが、北朝鮮の「完全な非核化」となったのも当然だろう。
しかし、会談後に文書として両首脳が署名した「シンガポール共同声明」は、実効性の点で物足りず、北朝鮮の従来の立場を、あらためて確認するレベルにとどまった。
共同声明は、非核化について四月二十七日の南北首脳会談で合意した「板門店宣言」を再確認し、「朝鮮半島の完全な非核化」に北朝鮮が努力するとした。
米国が求めていたCVID(完全で検証可能、不可逆的な非核化)という言葉は入っておらず、実行に向けた具体的な日程の言及もなく、新味に欠けた。

◆今後の見通しは不透明
トランプ氏も不十分さを実感していたに違いない。
「この文書には盛り込まれていないことがある」と強調し、正恩氏がミサイルエンジン実験場の閉鎖を約束したと語った。
またトランプ氏は、正恩氏が非核化のプロセスに「早期に着手するだろう」と述べたものの、今後順調に進むか不透明だ。
長く険しい対立を、一回の会談で解消することは難しいに違いない。トランプ氏も、会談の成果は「一定の信頼醸成だった」と説明したほどだ。
とはいえ、正恩氏が核放棄にどこまで本気なのか、今回も十分確認できなかったのは残念だ。
首脳会談直前まで、事務方同士が調整を進めた。正恩氏は、北朝鮮に理解を示す中国を後ろ盾に、段階的に核放棄する従来の姿勢を譲らなかったようだ。
正恩氏は、「北朝鮮に対する敵視政策と脅威がなくなれば、核を持つ必要はなくなる」と非核化への決意を表明、経済発展に専念する考えを強調してきた。
正恩氏が本当に国内経済を発展させたいのなら、核やミサイルを使った駆け引きを、これ以上続けるべきではない。非核化に向けて動きだす時に来ている。
今回の会談では、朝鮮戦争を終わらせるための「終戦宣言」も、大きなテーマとなった。
終戦宣言」は正式な終戦に先立ち、戦争を終える意思を確認し合うことだ。
北朝鮮を安心させ、核放棄に応じさせるための「政治的メッセージ」だが、これも見送られた。
代わりに合意文書の中では、「北朝鮮に安全の保証を与える」「米朝両国は、朝鮮半島に恒久的で安定した体制を築くことに努力」などの表現が盛り込まれた。
完全な核放棄の実現前に、体制の保証を与えることを約束するものであり、北朝鮮にとって満足できる内容になったのではないか。
朝鮮戦争終戦は一刻も早く実現すべきだが、非核化の具体性が先行して示されるべきであることを忘れてはならない。
正式な終戦には、北朝鮮と米中、そして韓国が加わった四者による平和協定の締結が必要になる。さらに将来的には、在韓米軍の見直しにもつながるだろう。

◆日本も首脳会談目指せ
日本や北東アジア全体の安全保障にも、大きな影響が出ることが想定される。慎重かつ確実に進めてほしい。
安倍晋三首相は、北朝鮮による日本人拉致問題について「正恩氏との間で解決しなければならない」と決意を語っている。トランプ氏も、会談で拉致問題北朝鮮側に提起したと語った。
自国民の人権に関わる問題を、他国任せにしてはならない。タイミングを見極めて、直接対話の機会を探らなければならない。