保育の無償化 新たな格差生まないか - 東京新聞(2018年6月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018060402000153.html
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安倍政権が打ち出した幼児教育・保育の無償化策のうち課題となっていた認可外の保育施設の対象範囲が示された。支給額に上限を設ける案だが、これでは逆に利用者の負担格差は広がらないか。
「国の力は、人に在り」
安倍晋三首相が一月の施政方針演説でこう力説し「人づくり革命」の断行を宣言した。その目玉に昨年の衆院選公約で掲げた二兆円の政策パッケージの柱である幼児教育・保育の無償化の推進も表明した。
だが、無償化は衆院選で首相の口から突然でてきた。認可外施設は当初対象外だったが、批判を浴びて方針を変えた。示された案を見ると、「革命」は泥縄式の対応と言わざるを得ない。
確かに幼稚園や認可保育所などを利用する三〜五歳児は全員を、ゼロ〜二歳児は低所得層を無償化の対象とした。だが、認可外利用者への支援は、三〜五歳児で認可施設の全国平均額である月三万七千円を上限とした。ベビーシッターなど幅広く対象としたのは歓迎されるが、なお負担は残る。
認可外施設の利用料は自由価格のためばらつきがある。政府は「公平性の観点」から上限を設けたと説明するが、疑問がわく。
利用者の多くは、認可施設に入所できなかったケースだろう。認可外は利用料が月七万円超の施設もある。やむなく高額な利用料を払っているのに、負担が残ることに利用者の不満は残るだろう。
認可施設への入所は、就労状況などを勘案して決められるが、一般的に長く働く正社員が利用を認められがちだ。その結果、低賃金の非正規社員が認可外施設に子どもを預けざるを得ず、高い利用料負担を強いられている面もある。
待機児童数は昨年十月時点で約五万五千人いた。どこにも入所できなければその恩恵を受けられない。この支援策を導入しても格差は残る。不公平ではないか。待機児童解消が優先されるべきだ。
「保育の質」については、保育士の配置や設備などで一定の基準を設けるが、五年間に限り基準を満たしていない施設も対象とする。政府は自治体の監督体制の強化や、認可施設への移行を後押しすると説明するが、人材確保なども含め実効性が問われる。
無償化の財源は消費税の増税分を充てる。本来は社会保障費への借金を減らすための財源のはずで、結局将来世代にツケを回している。そうならない財源確保や制度設計を工夫する必要がある。