天安門事件から29年 民主主義実現、諦めず 元学生リーダーで作家・江棋生氏 - 東京新聞(2018年6月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201806/CK2018060402000120.html
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民主化運動が武力弾圧された一九八九年六月四日の天安門事件から二十九年。事件以降、中国はどのように変わったか。中国人民大学の大学院生で学生リーダーの一人だった作家の江棋生(こうきせい)氏(69)は二十九年間を振り返り、「中国の政治は当時からほとんど進んでない」と嘆く。一方で「一党独裁人間性に反する。中国でも民主主義が実現する日が必ずくる」と希望を抱く。 (北京・中沢穣)

天安門事件に関する議論は今もできない。
江沢民(こうたくみん)、胡錦濤(こきんとう)、習近平(しゅうきんぺい)の各氏は毎年、六月四日がくるのを恐れている。自分たちの悪事があまりに恐ろしく、振り返ることもできないからだ。だからこの日が近づくと知識人への締め付けを強め、自分たちの耳をふさぐ。民主主義や政治改革など当時の学生たちの要求は全く実現していないが、民衆は進歩している。多くの人がネット規制をかいくぐって国外の情報に触れ、国外に出る人も増えた。政府が情報を止めようとしても、民衆が真相を理解することは止められない。民主主義を求める心は死んでいない」

−一党支配で社会が安定したからこそ経済が発展したという主張もある。
「政府と同じ意見しか許されず、人々を卑屈にさせる安定とは何なのか。習近平氏はこのやり方が中国人に合っていると考えているが、言論の自由や民主主義が中国の国情に合わないとは思わない。真実を話せない社会に創造はなく、模倣と盗用では世界の先頭には立てない」

−日本や米国では、中国もいずれ民主化するという期待がしぼみつつある。
「中国の知識人にもあきらめが広がっている。〓小平(とうしょうへい)氏は野心を隠して経済発展に集中したが、習近平氏は強権的な政治制度を『中国モデル』と言って欧米の民主主義に挑戦している。ある意味でいいことだ。世界の人々は中国の考え方を知り、民主主義と比べることができる。人権を尊重せず、真実を口にできない制度は人間性に反する。時間はかかるだろうが、中国でもいずれ民主主義が実現する」

ポピュリズム大衆迎合主義)のまん延など民主主義も混乱している。
「どんな国にも問題はあるが、民主主義では問題がどこにあるのかを議論できる。一党独裁とは根本的に違う。勇気を出さなければ心の中の本当の考えや信じることを話せない、それがどんな気持ちなのかは、日本など民主主義のもとで育った人々には分からないだろう。民主主義国家で生きることは幸せなことだ」

−今後の活動は。
「国内から実名で意見を言い続けたい。それが他の人々を励ますことになる。当局の圧力で私には健康保険も年金もないが、リスクを恐れてはいない」

天安門事件> 1989年4月に改革派指導者の胡耀邦(こ・ようほう)元総書記が急死したのを機に、学生らの民主化要求運動が高まり、天安門広場を中心にデモ活動が広がった。〓小平氏ら指導部は運動を「反革命暴乱」と決めつけ、軍が武力弾圧した。6月3日夜に制圧を始め、4日未明には広場に突入して鎮圧した。政治的な風波(騒ぎ)として弾圧を正当化している当局は死者数を319人としているが、実際は1000人以上との見方が多い。

※〓は登におおざと