<自衛隊明記の波紋 9条改憲を考える>ミサイル防衛は攻撃に 沖縄全体で配備考え直す時 - 沖縄タイムズ(2018年5月2日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/246182
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石嶺 香織(いしみね かおり)
「てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」共同代表 織物業
1980年生まれ。福岡県出身。大阪外国語大学中退。2008年、宮古上布を学ぶために宮古島に移住。織物業。2015年6月、陸自配備に反対するママたちを中心に「てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」を結成。共同代表。元宮古島市議会議員。

今、9条改憲が議論になっている。自民党では9条第1項(戦争放棄)と第2項(軍隊不保持)(交戦権否認)を維持しつつ自衛隊を明記する案が出ている。
9条改憲は、宮古島への陸上自衛隊配備にも大きく関係する。宮古島には他国の艦艇を攻撃する地対艦ミサイルと、他国の航空機を攻撃する地対空ミサイル(SAM)が配備予定とされる。3月4日に宮古島で行われた住民説明会で、防衛省は「特定の国がわが国に対して攻めてきて初めて、専守防衛という観点で対処する。我が方から手を出すことはない」と説明した。しかし安全保障法制の成立によって、もし中国とアメリカの間に衝突が起こり、政府がそれを「存立危機事態」と認定すれば、宮古島が攻撃されなくても、防衛出動が発動され宮古島からミサイルを発射することは可能だということになっている。
宮古島からミサイルを発射すればどうなるか。発射した地点を探知されないように、車載式のミサイルは島中を移動する。その時、島全体が標的になる。5万5千人の住民の避難は簡単にはいかない。有事になれば船も飛行機も使えない。住民は島の中で逃げ回るしかない。まさに沖縄戦の再来だ。その危機を、離島に暮らす私たちは実感を持って感じている。
防衛省はなぜその説明をしないのか。そんなことを説明すれば、たとえミサイル配備に賛成している人たちでも、「島の防衛のための配備なら受け入れるが、攻撃は困る」と考えるのが分かっているからだ。賛成反対にかかわらず、私たちの考え方の根底には憲法9条があるのではないだろうか。そして、憲法9条があるために、防衛省も「攻撃されない限り発射しない」と言わざるをえない。つまり、安保法制と憲法9条が矛盾していることを知っているのだ。
憲法9条自衛隊を明記すれば、安保法制下の自衛隊、つまり集団的自衛権を限定的に行使できるとした自衛隊憲法によって正式に定義されることになる。
国民的な議論が十分ないままに、防衛予算は増え続け、専守防衛のはずだった自衛隊は、いつの間にか攻撃ができる自衛隊になりつつある。9条改憲という、ミサイルを発射するための最後のスイッチを持っているのは、私たち国民なのだ。
ミサイル配備の目的とされる「島しょ防衛」は、「攻撃」を「防衛」にすり替える便利な言葉だ。
政府は昨年12月、長距離巡航ミサイルを導入する方針を決め、18年度防衛費で正式に購入が認められた。防衛省は、敵のミサイルが届かない空域から地上や艦艇を攻撃する能力を持つことで、島しょ部に敵国軍が侵入した後の奪還を想定していると主張するが、専門家は攻撃される前に敵国の基地を破壊する「敵基地攻撃能力」としての転用も可能だと指摘している。
「島しょ防衛」という建前ならば国民が納得するだろうと国が考えること自体が、恐ろしい。この建前とは、宮古島が占領された場合、島をめがけてミサイルを撃つことである。日本を守るために自国の国民が住んでいる島に対しミサイルを発射することを、国民の皆さんご理解くださいというのだ。もしかして私たち島民は、国民のなかに入っていないのだろうか。このような理屈で、「島しょ防衛」というものが進められている。この理屈で言えば、どんな「攻撃」も「防衛」と説明できるのである。
宮古島では昨年10月30日に千代田地域で陸上自衛隊駐屯地の造成工事が始まった。来年4月、千代田には地対艦ミサイルが4基、SAMが3基配備予定とされる。そもそも、このミサイル配備自体が憲法違反であると私は思っている。
憲法9条第1項にはこう書いてある。「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」
防衛省は、宮古島での住民説明会でミサイル配備の理由として、「わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している」と繰り返しているが、近隣諸国からするとミサイル配備は「武力による威嚇」そのもので、9条第1項と矛盾している。
2月末には、沖縄本島にも陸自の地対艦ミサイル部隊の配備が検討されているという報道があった。これらのミサイルは沖縄本島宮古島の間を通過する中国の艦艇に向けられるものだ。
これまで陸自配備の問題は、宮古島石垣島与那国島、鹿児島県の奄美大島、それぞれの島の問題とされてきたが、ミサイル配備が本当に沖縄県にとって平和をもたらすのか、沖縄県全体として考える時が来ているのではないか。
日米両政府は昨年8月の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の共同発表で、南西諸島を含めた自衛隊の態勢を強化し、米軍基地の共同使用を促進することを再確認した。また昨年10月には、在沖縄の米海兵隊の一部がグアムに移転した後に、日本版海兵隊と呼ばれる陸自の水陸機動連隊の一つをキャンプ・ハンセンに配備する方向で検討していると報道された。今年3月末に水陸機動団が発足し、米軍が担っていた役割は徐々に自衛隊に移行している。これまでのように、米軍基地と自衛隊基地を分けて考えることはできないのではないか。
沖縄県は、米軍基地の問題と並行して陸自配備問題を考えていかなければならない。そうしないと、米軍基地の負担は軽減しても自衛隊基地の増加によって、全体の基地負担は増えていたというような未来になりかねない。
私には6歳と4歳と2歳の子どもがいるが、子どもたちに対して憲法と、安保法制、そして目の前でつくられていくミサイル基地について、どのように説明していいか悩む。今国は、子どもにも説明できないようなことを進めているのだと思う。
自衛隊憲法違反との批判があるから、憲法自衛隊の整合性を取るために改憲が必要だと言われている。しかし、整合性を求めるならば、他にも選択肢はあるのではないだろうか。やはり私は、現行の憲法9条を基本に、改めて自衛隊の在り方を考え直すことで整合性を取ることを選びたいと思う。
安保法制は成立し、ミサイル基地の建設は始まった。しかし、この改憲議論をきっかけにもう一度立ち止まって考え直すことはできると思う。
9条改憲は、何よりも重い。安保法制の白紙撤回や、ミサイル基地の建設をストップすることは、9条改憲よりはずっとたやすいはずだ。子どもたちに平和な未来を手渡すことを、諦めずにいたい。