(書評)シリアの秘密図書館 デルフィーヌ・ミヌーイ 著 - 東京新聞(2018年4月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2018042202000179.html
http://archive.today/2018.04.22-195941/http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2018042202000179.html

◆人が人であるために
[評者]師岡(もろおか)カリーマ=文筆家

戦争が続くシリアの首都ダマスカス近郊の町ダラヤ。長期にわたりアサド政権軍に包囲され、激しい空爆にあいながらも抵抗を続けるこの町に「秘密図書館」が作られた。爆撃で破壊された建物の瓦礫(がれき)から若者たちが本を救出し、地下の一室に集めたのだ。そうしてできた空間は、単なる読書室にとどまらない、戦禍の人々を孤独から解き放ち、今にも吹き消されそうな希望の灯を燃やし続ける場所となった。そこにある一冊一冊が、過酷な現実から自己を守る心の砦(とりで)を築くレンガなのだ。不安定なインターネット接続が、包囲下の若者たちとトルコ在住のフランス人ジャーナリストとを結び、本書を通じて私たちもまたその非日常的日常を生き、一喜百憂をしばし共有する。
詩的な表現を多用し、外にいながら主観的に戦争を語るジャーナリズムの在り方に違和感を抱く読者もいるかもしれない。だがこの本の使命は、戦場の瓦礫に埋もれた人々の声をすくい上げ、彼らが生きた証(あかし)を「時の厚みと人の記憶に刻みつけること」。著者は誠実にその使命を果たす。
「戦争は悪です。人間を変えてしまう。感情を殺し、苦悩と恐怖を与える。(中略)本を読むのは、何よりもまず人間であり続けるためです」。戦場の若者たちの言葉は私たちにとっての警告であり、人間性への信頼を繋(つな)ぐ希望である。

(藤田真利子訳、東京創元社・1728円)

<Delphine Minoui> 1974年フランス生まれ。ジャーナリスト。

シリアの秘密図書館 (瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々)

シリアの秘密図書館 (瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々)

◆もう1冊
ザカリーヤー・ターミル著『酸っぱいブドウ/はりねずみ』(白水社)。柳谷あゆみ訳。シリア人作家による中短篇。