木村草太の憲法の新手(76) 森友文書改ざん 解明は公共関心事、秘密漏えいに該当せず - 沖縄タイムズ(2018年3月18日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/224345
http://web.archive.org/web/20180318040947/http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/224345

3月2日の朝日新聞のスクープ以降、森友文書改ざんを巡る問題は収束する気配を見せない。問題の解明は、まだまだこれからだろうが、2点ほど指摘しておきたい。
まず、朝日新聞に文書改ざんの情報を伝えた者について、秘密漏えいの犯罪だとする声がある。確かに、今回の文書改ざんの事実は官僚からリークされた可能性もある。国家公務員法100条は「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」と定め、同法109条12号により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。また、同法111条により、秘密漏えいをそそのかした者にも同様の罰が科される。
しかし、ここに言う「秘密」は、単に秘密指定された情報すべてが該当するわけではない。最高裁は、「実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいう」と解釈している。
公文書が改ざんされた事実は、重大な公共関心事であり、これを実質的な秘密と解するのは妥当ではない。情報リーク者を犯罪者扱いしたり、「犯人捜し」に興じるのは、ばかげている。
次に、改ざんの時期や動機について、政府の説明は、極めて不可解だ。12日、麻生太郎財務大臣は、文書書き換えの時期を2017年2月下旬以降とした上で、佐川宣寿理財局長(当時)の答弁と決裁文書に齟齬(そご)があり、「誤解を招くということで佐川の答弁に合わせて書き換えられた」との認識を示した。
しかし、朝日新聞森友学園の初報は、17年2月9日だ。国会議事録によれば、佐川氏がこの問題について初めて答弁した2月15日には、既に大きな問題になっていた。この問題について答弁に立つ大臣や局長が誠実な答弁をしようとするなら、決裁文書を見て事案の概要を把握していなければおかしい。そして、麻生大臣の説明が正しいならば、この時点では、まだ決裁文書は書き換えられていない。
つまり、麻生大臣や安倍首相は、書き換え前の決裁文書を見て、籠池泰典氏が、安倍昭恵氏から「『いい土地ですから、前に進めてください』とのお言葉をいただいた」と述べていたことや、一緒に並んだ写真を提示していたことを知っていたはずだ。安倍首相や麻生大臣は、目の前で佐川局長が、「交渉経緯の分かる記録は残っていない」とか、「価格につきまして、こちらから提示したこともございませんし、先方から幾らで買いたいといった希望があったこともございません」と答弁するのを聞いて、おかしいと気づけたはずだ。その場で、訂正したり、調査を指示したりできたはずだろう。
改ざんが17年2月下旬以降だったという政府の説明を前提にすると、安倍首相も麻生大臣も、むしろ、積極的に情報を隠蔽(いんぺい)しようとしていたとしか評価できない。その責任はあまりに重大だ。また仮に、17年2月中旬の段階で、安倍首相や麻生大臣が問題の契約の決裁文書を確認しなかったというなら、あまりにも無責任な話で、責任はより一層重大だ。
今回の事件を官僚の責任問題で終わらせることはできない。安倍首相と麻生大臣は、いつ決裁文書を確認したのか。その解明が必要だ。(首都大学東京教授、憲法学者

◆3月27日に那覇市で講演会
沖縄タイムス社は27日、木村草太氏の講演会「沖縄で考える憲法の未来」を開催します。講演は同日午後7時から、那覇市久茂地のタイムスホールで。入場無料。