木村草太の憲法の新手(77)佐川氏証人喚問 「改ざん防ぐ関与」なし、首相ら監督責任果たさず - 沖縄タイムズ(2018年4月1日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/230982
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森友文書改ざんを巡る問題で、3月27日に行われた佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問では、真相が解明されたわけではない。しかし、重要な証言があった。
首相には行政各部の指揮監督権があり(憲法72条)、財務省の管理は財務大臣の責任だ。よって、安倍首相と麻生財務大臣には、文書改ざんを防止しなかった監督責任がある。両者が「監督責任を果たした」として免責されるためには、決裁文書の管理に関して、積極的に関与したことを証明する必要がある。
例えば、森友問題が報じられた段階で、自ら決裁文書を確認したり、あるいは、担当部局に関連資料を保全させた上で、「首相や首相夫人の関与をほのめかすような文書があっても、隠さずに国会に報告すること」を指示したりする必要があった。
首相らが監督責任を十分に果たしていたなら、佐川氏は、「首相からは文書管理の徹底を指示されていた」という趣旨の証言をしたはずだ。しかし、自民党丸川珠代参議院議員の「佐川さんに対し安倍総理からの(書き換えの)指示はございませんでしたね」という質問に対し、佐川氏は「ございませんでした」とだけ答え、首相が監督責任を果たしていたとは証言しなかった。丸川議員は、書き換えについて「総理の関与がなかったことの証言が得られました」と、首相を擁護したが、「関与がなかった」ことは、むしろ首相が監督責任を果たさなかったことを示す事実だ。
さらに、民進党小川敏夫参議院議員の質問に答える形で、首相から指示がなかっただけでなく、「協議や連絡や相談といったものはございませんでした」と佐川氏は証言した。これは、書き換え指示という「不適切な関与」がなかったと同時に、決裁文書の内容確認や保全のための相談といった「適切な関与」もなかったという証言だ。
これに加え、佐川氏は、小川議員の「首相答弁のために官邸と打ち合わせをしたのではないか」との指摘に対し、官邸には、自身の答弁を簡略化したものを届けただけだと答えている。これも、首相が決裁文書の具体的内容を確認しようとしていなかったことを示す証言だ。
立憲民主党逢坂誠二衆議院議員は、2017年2月17日に、安倍首相が「取り引きに私や妻が関わっていたら総理も議員も辞める」と発言した後に、「理財局内部で、あるいは官邸との間で特別にその対応を話し合ったことはございませんか」と質問した。これについても、佐川氏は、「総理のご発言をもとに協議をしたことはございません」と証言した。総理や官邸は、理財局を動揺させかねない国会発言をした後も、「あの発言に影響されることなく、真相を適切に説明し、文書を厳格に管理せよ」といったフォローを入れていないということだ。
佐川氏の証言は、首相や財務大臣監督責任を果たさなかったことを強く裏付けた。「何も知らなかった」「何もしなかった」で免責されるのでは、誰も適切な監督責任を果たさなくなる。責任ある政治のためには、首相や各大臣が適切に監督権限を行使するように制度設計しなければならない。今回の無責任は、減給などでは済まない、重大な責任問題だ。(首都大学東京教授、憲法学者

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3月27日にタイムスホールで開催された木村氏の講演会の模様は、こちらで視聴することができます。


木村草太氏講演会「沖縄で考える憲法の未来」