受刑者 服役中に移送先病院で出産 手錠付け分娩台に - 毎日新聞(2018年3月11日)

https://mainichi.jp/articles/20180311/k00/00e/040/165000c
http://archive.today/2018.03.11-040729/https://mainichi.jp/articles/20180311/k00/00e/040/165000c

覚せい剤取締法違反の罪で2010年から2年半にわたって笠松刑務所(岐阜県笠松町)に服役していた30代の女性が毎日新聞の取材に応じた。妊娠していた女性は服役中、移送先の病院で出産したが、手錠をはめられた状態で分娩(ぶんべん)台に上がった。「手錠があったことで出産が苦しい思い出になった」と振り返る。法務省は14年12月の通達で出産時には手錠を外すとの統一方針を打ち出したが、それまでは妊娠中の受刑者や被告の多くが、手錠を付けての出産を強いられてきた。【沼田亮】

女性は09年4月、覚せい剤取締法違反(使用)の罪で有罪判決を受けた。薬物依存から抜け出せず執行猶予期間中の10年6月に再び同法違反容疑で逮捕された。女性は当時、妊娠していたが、同年9月に懲役2年6月の実刑判決を受け、同10月から笠松刑務所に入所した。
服役中の11年5月、陣痛が始まり、岐阜市内の民間病院に移送された。分娩台に上がる際、二つの輪を重ねた手錠を片方の手にはめられ、手錠に結ばれた捕縄を持った女性刑務官が出産に立ち会った。無事に女児を出産したが、女性は「こんなところまで手錠をしなければならないのか疑問に思った」と振り返る。
療養期間中、病室で赤ちゃんと過ごす際も逃亡の恐れがあるとして手錠をかけられ、捕縄を持った女性刑務官に監視された。「手錠同士が重なり合うカチャ、カチャという音が子どもに刻まれたらどうしようという不安、苦しさを感じた」

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刑事収容施設法は受刑者が刑事収容施設外にいるなど逃走の恐れがある場合、捕縄や手錠を使用できると定める。拘置所や刑務所に入所する女性が出産する場合、原則として刑務所外の病院などで出産するとしている。女性受刑者の出産は各刑務所の判断で決めることになっていたが、女性を収容する全国10刑務所(17年8月から11刑務所)のうち和歌山、加古川兵庫県)、麓(佐賀県)の3刑務所を除く7刑務所が、14年に法務省が通達を出すまで受刑者に手錠を付けたまま出産させるなどしていた。
見直しのきっかけは、笠松刑務所で出産を控えていた別の女性受刑者が14年、夫に出した一通の手紙だった。手錠を付けられたままの出産への不安や疑問を手紙で夫に訴えた。夫が刑務所や関係機関に働きかけた結果、女性は14年11月、手錠なしで男児を出産した。
この話を聞いた当時の法相が出産時の手錠使用を禁じるよう指示。法務省は同年12月26日付で「新たな生命の誕生に臨む受刑者の心情について検討した結果、出産時は手錠をしない取り扱いとする」との通達を各拘置所や刑務所に通達した。

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毎日新聞の取材に応じた女性は「出産は内面的にも成長させてもらえる。でも手錠があったことで苦しい思い出になるし、出産は悪いことだと思ってしまう。手錠がない状態で子どもを抱きしめられるようになって良かった」と話す。


龍谷大の赤池一将教授(刑事政策)は「出産時に手錠をかけていたのは明らかに過剰な対応だった。背景には受刑者だから我慢するのは当然という考えがあり、こうした対応が当事者から声が上がるまで何の疑問もなく行われていたことが問題だった」と指摘している。