高校指導要領改定 現場教員に裁量と支援を - 熊本日日新聞(2018年2月17日)

https://kumanichi.com/column/syasetsu/350770/
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文部科学省は2022年度から順次実施する高校学習指導要領の改定案を公表した。09年以来の全面改定で、意見公募を経て17年度中に告示する。改定案は現在より「知識の理解の質をさらに高め、確かな学力を育成する」というが、実現は容易ではなさそうだ。
改定案では、教育内容を削減せず、指導要領の記述の分量は現行の約1・5倍に増えた。履修内容は盛りだくさんで、果たして生徒たちはついていけるのか。また、今でも授業の準備時間が足りないと嘆き、過重労働が問題視されている教員たちは対応できるのか。
目玉の一つは、必修科目「公共」の新設だ。選挙権年齢の18歳以上への引き下げを受けて政治参加や労働問題を扱い、情報を正しく読み取る力「メディアリテラシー」の育成も目指す。
当初は規範意識を重視した“高校版道徳”になるのではないかともささやかれたが、内容は主権者教育や公民教育といった穏当なものとなり、主体的な社会参画を高校生に促すなど多様な学びの可能性は広がった。現状に批判的な意見が、教室でも尊重されるかどうかが成否の鍵を握ることになる。
もう一つは、昨年告示の小中学校の改定でも盛り込まれた「アクティブ・ラーニング」(主体的・対話的で深い学び)の導入だ。意見発表や討論を重視する学習方法だが、科目や単元、生徒の習熟度によって向き不向きがあると指摘する専門家もいる。アクティブ・ラーニングを意識するあまり議論に時間を割きすぎると、カリキュラムをこなしきれなくなる懸念もある。
地理歴史では、近現代の日本史と世界史を統合した「歴史総合」を設けて必修とし、固有の領土も明記。大学入試改革を踏まえ、英語は「読む・聞く・話す・書く」の4技能育成を重視した。
学習指導要領は、現場の創意工夫を引き出すための最低限の学習内容を示す「大綱的な基準」とされてきたが、今回は学び方や養うべき力がどんなものかといった細部にまで踏み込み、教科ごとの指導の目標を細かく記述した。
その背景には、団塊世代教員の退職で指導経験が継承されにくくなった実情があり、若手教員に「学びの地図」を示そうという意図もあるのだろう。
文科省は「具体的な指導方法は縛っていない」と強調するが、「大綱」の特性が薄らぎ、新しい授業のマニュアルと化した感もある。法的拘束力のある指導要領が詳しくなりすぎると、教える側の裁量が狭まり授業をしにくくなる可能性もある。
高校教員は各教科の専門性が高い。運用に当たっては学校を縛り付けず、子どもを一番よく分かっている現場の教員に裁量を与え、創意工夫に委ねるべきだ。そうでないと、国が理想とする画一的な教育を押し付けることになりかねない。負担が増す教員への丁寧な説明と、研修などの手厚い支援も欠かせない。文科省はきめ細かな対応を尽くすべきだ。