(高校新指導要領)教育現場の裁量保障を - 沖縄タイムズ(2018年2月16日)


http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/210415
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文部科学省が2022年度から実施する高校の新学習指導要領改定案を公表した。生徒が主体的に学び、対話や発表などを通じて学習を深めるという点を重視しているのが特徴だ。従来、批判があった受け身で知識偏重の学習から、能動的な学習へと質的な転換を狙っている。
文科省は、意見発表や討論などをしながら学習し、答えを探求する「アクティブ・ラーニング」を、小学校から大学まで広めようとしている。今回の高校の改定案も、アクティブ・ラーニングによる授業改善を求めた。グローバル化が進む中、多様な視点から学び、思考力・判断力・表現力を育成する方向性は評価できる。
20年から実施される「大学入学共通テスト」も、それらの力を重視する方向で、今回の改定案とも連動させている。昨年改定された小中学校の指導要領も同じ趣旨となっており、日本の学校教育の大きな改革といえる。
気になるのは、「主体的・対話的で深い学び」の授業改善が実際にできるかどうかだ。知識をベースに議論を深めることが要求される一方、カリキュラムは減らず、学習内容は総じて増えている。
アクティブ・ラーニングを意識するあまり、議論に時間を割きすぎると、教科をこなせないという懸念もある。授業時間が足りなくなった結果、学びが十分でないというようなことになっては意味がない。教師も試行錯誤を繰り返すことになるが、円滑に移行できるような支援が欠かせない。

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もう一つの目玉は、選挙権年齢の18歳以上への引き下げを受け、政治への参加や働くことなどを題材に、社会とどう関与していくかを考える「公共」の新設だ。
実社会を探求するため、政治の動きや課題を教材に議論を深めること自体は納得できる。ただ、学習の目標には「公民として自国を愛し」と愛国心が強調され、「国家主権、領土」といった項目が重視されている。安倍政権の意向を反映していることも気がかりだ。
教え方によっては、国民の「あるべき姿」が強調され過ぎて異なる考えが排除されたり、時の政権の画一的な価値観や規範意識の押し付けになったりする懸念が拭えない。
政治、社会の問題を議論する意気込みを持って取り上げる教員が、偏向批判を受けたりするようなことがないよう、教育現場の自由を保障する必要がある。

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学習指導要領はこれまで「大綱的な基準」とされてきたが、改定案は指導内容や狙いなどを細部に踏み込んで説明し、教科ごとの学習目標も細かく記述した。大綱的性格が変わり、教える側の裁量を狭めかねないとの指摘もある。
大幅な改定であるため、教員に対する丁寧な説明や、十分な研修など手厚い支援が必要だ。とはいえ、改定内容に縛られて、授業がしにくくなることがあってはならない。
「多面的、多角的に考える」生徒を育成するためには、現場教員の創意工夫を重視することが大前提である。