トランプ氏と核兵器 力の信奉を憂慮する - 東京新聞(2018年2月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018021302000154.html
https://megalodon.jp/2018-0213-1335-18/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018021302000154.html

力を信奉するトランプ大統領の意向に沿った内容である。米国の新しい核戦略は、世界の人々の核廃絶の願いに背を向けるものだ。深い憂慮を覚える。
米国が核軍縮を進めている間に、ロシアと中国は核戦力の増強を図り、北朝鮮は核・ミサイル開発を追求、米国はかつてない核の危機に直面している−。
米国が公表した「核体制の見直し(NPR)」は、こんな現状認識に立つ。そのうえで、核兵器の役割を広げて使用の敷居を低くすることを打ち出した。
◆「核なき世界」と決別
これは冷戦後に加速した核軍縮路線からの転換を図り、オバマ前政権が掲げた「核なき世界」との決別を意味する。核軍拡競争のゴングを鳴らしたにも等しい。
ロシアが局地戦に用いる戦術核を重視しているのに対抗して、爆発力が低くて「使いやすい小型の核兵器」を開発するという。
米国がこれを使用した場合、敵国はそれが小型核なのか、破滅的な被害をもたらす戦略核なのか判断に迷うだろう。最悪の事態を想定した反撃に出れば、全面的な核戦争にエスカレートしよう。
しかも、「使いやすい」のは米国に限ったことではないので、開発に乗り出す国が現れよう。
NPRは核兵器の使用について「米国と同盟国の死活的利益を守る極限状況下でのみ検討する」とオバマ政権の方針を踏襲した。一方で、通常兵器による攻撃や基幹インフラなどへのサイバー攻撃に対し、核兵器による報復の可能性を示し、使用条件を緩和した。
核で威嚇すれば相手はひるむと考えているのだろうか。極めて危険な発想である。
全米科学者連盟の核問題専門家のクリステンセン氏によると、冷戦末期の一九八六年、七万発以上の核弾頭が世界にあった。これをピークに削減が進み、昨年の段階で、退役・解体待ちも含めると約一万四千五百発まで減った。
米国の場合、最多だった六七年の三万一千二百発余から、今は約六千六百発まで削減された。
だが、最近は核軍縮のペースは鈍っている。米ロは二〇一〇年、戦略核弾頭の配備数を双方が千五百五十発まで削減することを約した新戦略兵器削減条約(新START)に調印して以降、軍縮交渉のテーブルについていない。
NPRが示すトランプ政権の姿勢では、偶発的な核戦争の危険が大きくなる。核軍拡が高じれば拡散の恐れも高まる。核軍縮の方がよほど世界の安全につながる、と米国は考え直すべきだ。
核兵器への強い執着
トランプ氏は三十八歳だった八四年、ソ連との核軍縮交渉の担当者になりたい、と米紙のインタビューで言った。「ミサイルのことをすべて学ぶには一時間半ほどあればいいだろう」と自信たっぷりだった。
九〇年の雑誌インタビューでは「核戦争のことをいつも考えている。私の思考プロセスにおいて極めて重要な要素だ」「人々は核戦争なんて起きるはずがないと思っているが、それは最も愚かなことだ」と語った。
大統領選中は、なぜ米国は核兵器を使用できないのかと自分の外交顧問に何度も尋ねた、と報じられた。
就任後も、米国の核弾頭保有量が減少し続けている現状の説明を受けて、十倍に増強したい意向を示したとメディアを騒がせた。
一連の発言からは、核兵器に取りつかれたと言うのは大げさにしても、強い執着を持っている姿が浮かび上がる。
この年明けに北朝鮮の挑発に乗って「私が持つ核のボタンの方がはるかに大きい」とツイッターに書き込んだ時には、トランプ氏の精神状態と資質への懸念が広がった。これに「私は賢いというより天才だ。(精神的に)安定した天才だ」と反論したのはかえって逆効果だった。
ハイテン米戦略軍司令官は昨年、トランプ氏が核攻撃を命じても、それが違法ならば従わない考えを表明した。
核戦略に携わった十七人の元将校は先月、大統領の核使用権限に縛りをかけるため、使用に当たっては国防長官や議会の承認が必要とするよう求める書簡を議会に送った。
◆廃絶の理想を捨てるな
こうした懸念をよそに、日本政府がNPRを「高く評価する」(河野太郎外相)のは無邪気すぎる。
ブッシュ(子)政権が〇三年に小型核の研究を解禁した際に、当時の小泉政権は「核軍縮、核不拡散に悪影響を与える」との懸念を米国に伝えた。
安倍政権も核廃絶の理想を捨てぬよう米国に説いてほしい。

河野外相に「心変わりしたのか」と質問も トランプ「核」新方針を「高く評価」 - J-CAST(2018年2月5日)

https://www.j-cast.com/2018/02/05320468.html?p=all
http://archive.today/2018.02.13-044918/https://www.j-cast.com/2018/02/05320468.html?p=all

米国の核政策を定めた報告書「核態勢の見直し(NPR)」が2018年2月2日(米東部時間、日本時間3日)に8年ぶりに発表され、新たな小型核兵器や各巡航ミサイルの開発を表明した。「核なき世界」を掲げたオバマ前政権からの大転換だ。
日本政府は「核廃絶を主導」するとの立場だが、河野太郎外相はNPR発表直後に「今回のNPRを高く評価」するとの談話を発表した。河野氏は「高く評価しない理由はない」とも述べたが、これまでの立場と矛盾はないのか。
「我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にしています」
米国がNPRを出すのは今回が4回目で、オバマ前政権の10年以来8年ぶりだ。河野外相の談話では、前回のNPRが出た10年と比べて「北朝鮮による核・ミサイル開発の進展等、安全保障環境が急速に悪化している」として、今回のNPRについて

「米国による抑止力の実効性の確保と我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にしています。我が国は,このような厳しい安全保障認識を共有するとともに、米国のこのような方針を示した今回のNPRを高く評価します」

とした。核軍縮についても

核廃絶を主導すべき我が国としては、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的かつ具体的な核軍縮の推進に向けて、引き続き、米国と緊密に協力していく考えです」

などと説明した。
逢坂誠二衆院議員(立憲民主)は、2018年2月5日の衆院予算委員会で、声明を

「(今回のNPRは)核兵器削減を主導する立場からどんどん後退しているように感じる。それでも高く評価するのか」

と問題視。
「NPRが前回と違っているのは当然」「高く評価しない理由はない」
河野氏は、安全保障環境が変化している以上、NPRが変わるのは「当然」だとした。

オバマ大統領が(「核なき世界」を訴えた)プラハの演説をした時と比べると、北朝鮮の核・ミサイルの脅威というのはかなり進展しているのが現実。さらに中国の核戦力の増強、あるいは中国の各近代化計画における透明性の欠如、あるいは、ロシアがウクライナの紛争の中で見せたような限定的なエスカレーションに対するロシアの軍事ドクトリンに対する入れ込み、こうしたことはオバマ政権の時にはなかった。新たに進展してきた核の脅威だ。世界中の安全保障に対する脅威が変化するなかで、米国のNPRが前回と違っているのは、むしろ当然だと考えている」

さらに、談話でNPRを「評価する」としたことについては、日本の上空を北朝鮮のミサイルが複数回通過したことを引き合いに、

「我が国の国民の生命、あるいは平和な暮らしを守らなければいけない政府として、今回の米国NPRのように、きちんと同盟国に対して核の抑止力を明確にコミットしている、これを高く評価しない理由はないと思っている」

とした。
軍縮・不拡散議員連盟(NPPD)のウェブサイトによれば、河野氏はこの議連の会長を務めている。質問した逢坂氏も、この議連のメンバーだ。今回の衆院予算委員会では、「心変わりしたのか」などと問われた河野氏は「何ら私の気持ちに変化があったわけではない」と答弁していたが、今後も過去の発言との整合性を問われる可能性がありそうだ。
「『核の傘』というものが本当に存在するのか、あるいは破れ傘ではないかという疑問」
14年4月のブログでは、PNNDメンバーとして「核兵器廃止への道筋」と題したNGO会議に出席した際、自らの発言内容を

「『核の傘』がどういうときに、どう使われるのかといった具体的な議論が国会でもほとんど行われず、『核の傘』というものが本当に存在するのか、あるいは破れ傘ではないかという疑問に対してもこれまで政府がほとんど答えてこなかった。そのため『核の傘』がどんな役割を果たすのかという議論ができず、何かでそれを代替できるのかという可能性を探る議論がスタートすらできていない」

「岸田外務大臣も、核兵器の数の削減に加えて、核兵器の役割の削減が必要だと訴えているわけで、それには当然、『核の傘』として提供される核兵器の役割も削減する必要がある」

などとまとめている。今回の答弁では「同盟国に対して核の抑止力を明確にコミット」した点を評価した河野氏が、わずか4年前には核抑止力への疑問をにじませていたとも読める。