http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017121302000151.html
https://megalodon.jp/2017-1215-0952-32/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017121302000151.html
先駆的な取り組みを促す国際条約を結ぼうとしても、政府内部の関係機関がいろいろ理由をつけて阻むのが通例だ。今年、ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が尽力した核兵器禁止条約もその例だろう。安倍内閣は受賞の意義を認めながらも「日本政府のアプローチとは異なる」として条約に署名していない。
思い出すのは、対人地雷禁止条約の署名に踏み切った当時の外相、故小渕恵三氏だ。このときも対人地雷を保有する防衛庁(当時)などが難色を示し、在日米軍が保有する地雷の取り扱いなど課題はあったが、「世界の趨勢(すうせい)を踏まえて対応したい」として条約署名へと舵(かじ)を切った。いわゆる政治決断である。
小渕氏はその翌年、首相に就き、カンボジア訪問の際には地雷の除去作業を行う対策センターを訪ね、自ら地雷探知機を握った。パフォーマンスとはいえ、地雷禁止に懸ける決意を示すには十分だった。
核兵器禁止条約はどうか。唯一の戦争被爆国として、条約署名の上で、核廃絶を主導する政治決断はできなかったのか。交渉不参加を決めた岸田文雄前外相は広島県の選出だ。被爆者の思いを、日本政府が直接受け止めることができず、なおさら残念でならない。
小渕氏の例を引くまでもなく、政治指導者にとって決断力は不可欠な資質だ。首相の座は、天からは降ってはこない。 (豊田洋一)