(余録)裏声でこぶしを入れる島唄はなぜもの悲しく… - 毎日新聞(2017年11月12日)

https://mainichi.jp/articles/20171112/ddm/001/070/135000c
http://archive.is/2017.11.12-012353/https://mainichi.jp/articles/20171112/ddm/001/070/135000c

裏声でこぶしを入れる島唄はなぜもの悲しく、美しいのか。NHK「新日本風土記」のテーマ曲である「あはがり」。歌うのは、古くから奄美群島に伝わる島唄唄者朝崎郁恵(あさざき・いくえ)さんだ。
<浮き世 仮島に 何時(いてぃ)がでぃむ 居(う)らりゅむい 情けあれぃよ 仮那(かな) くぬ世ば うさむぃれぃがでぃ>(この世は神様からいただいた仮の世 いつまでとどまって居られましょうか 命を敬い生きていきなさい この世の生をなし終えるまで)。歌には島の魂が宿る。
天皇、皇后両陛下が16日から奄美群島を訪問される。島々は戦後、沖縄や小笠原とともに日本から切り離され、1953年まで米軍統治下に置かれた。それ以前にも薩摩藩に支配された時代がある。人々が息を抜けるのは一晩中歌を会話のように続ける歌遊びの時だったという。
52年4月28日、日本はサンフランシスコ講和条約の発効で主権を回復した。だが沖縄や奄美群島にとっては復帰がかなわなかった日だ。2013年の同じ日に政府は両陛下出席のもと、記念式典を開く。
式典会場で「天皇陛下万歳」の声が上がった。沖縄や奄美への配慮は感じられなかった。両陛下は03年に奄美大島での日本復帰50周年の記念式典にも出席して島の歴史を胸に刻んだ。お二人に「万歳」はどう聞こえただろう。
島唄が哀調を帯びるのは苦難の歴史からか。奄美大島には陛下の詠んだ「復帰より五十年経るを祝ひたる式典に響く島唄の声」の碑がある。その時、陛下はきっと島の魂に触れられた。