週のはじめに考える その選択が未来を拓く - 東京新聞(2017年10月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017101502000122.html
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島田恵(けい)監督の新作映画「チャルカ〜未来を紡ぐ糸車〜」−。私たち自身が過去に残した核のごみを直視して、持続可能な未来を選択しようと訴えます。
<あなたがこの世で 見たいと願う変化に あなた自身がなりなさい−>
映画の冒頭に飾られた、インド独立の父、マハトマ・ガンジーがのこした箴言(しんげん)です。
そして画面には千葉県の和綿の畑。耕す人々、紫色の綿の花…。監督自身のナレーションが重なります。
<チャルカ−インドの手紡ぎ糸車 ガンジーは英国の支配から自立するためには 綿花の輸出を止め 自国の綿花を自分たちで紡ぎ 手織りの布を作ろうと提唱しました。チャルカは独立運動のシンボルです−>
島田さんは一九八六年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに、綿の実から糸を紡ぎ出すようにして、じっくりと、丁寧に、青森県六ケ所村の人と暮らしと風景を、記録に残し続けている人です。
六ケ所村。そこは核燃料サイクル、すなわち原発から出た燃えかすの核のごみから原爆の材料にもなるプルトニウムを取り出して、新たな核燃料をつくり出すという「国策」の巨大基地−。
写真家だった島田さんは四年前、国策に引き裂かれ、翻弄(ほんろう)され続けてきた六ケ所村に福島の事故を重ね合わせて、初めてのドキュメンタリー映画「福島六ケ所 未来への伝言」を世に問いました。 新作の縦糸は核燃料サイクルです。映画の前半で、その仕組みを丹念に説明します。
リサイクル燃料を新型の原子炉で、燃やしながら増やし続ける夢の企て。ところが、要となるべき高速増殖原型炉の「もんじゅ」(福井県敦賀市)も、六ケ所村の再処理工場も、当初からトラブル続き。「もんじゅ」は昨年廃炉が決まり、再処理工場は九七年の完成予定が、二十三回も延期になっている。サイクルは破綻した−。
にもかかわらず、3・11の後にすべて止まっていた原発は、いつの間にか、続々と再稼働が認められ、行き場のない核のごみを増やし続けています。

◆持続可能な和の暮らし
横糸は、二十八年前に兵庫県から道北の豊富(とよとみ)町に入植した酪農家、久世薫嗣(しげつぐ)さん一家の暮らしの営みです。
長男が牧場で牛を飼い、長女がその乳でチーズを作る。三女はそこでカフェを営み、手作りのデザートを提供しています。次女は町内の別の牧場に嫁いでいます。
例えば、三女のジェラートは、道内で放し飼いのニワトリが産んだ有精卵を使っています。
廃棄する殻や卵白、チーズを作ったあとに残ったホエー(乳清)は豚の餌にする。砂糖も地元のビートから。自給自足と地産地消のサイクルが親しく閉じた、持続可能な生活です。
北に隣接する幌延町では、日本原子力研究開発機構(JAEA)が、核のごみを地中深くに埋設するための研究を続けています。
誰もが久世さん一家のように生きられるわけではありません。
しかし、途切れ途切れの核燃料サイクルと、持続可能な暮らしの“和”。重ねると、何が見えますか。
「あれだけの悲惨(3・11)を体験しても、もういやだと思っていても、大きな流れに乗ってしまう。大きな流れにのまれてしまう。知らず知らずに、原発再稼働を許してしまう。私たちは何かに支配されているのではなくて、自ら何かを売り渡してしまっているのではないかと思う」
島田さんは語り続けます。
「私たちは、どういう暮らしを選べばいいのか、どんな選択をすればいいのか、原発を生み出した私たちの社会と心の有りようを、立ち止まって考えたい−」

◆選択の日を前にして
<自分の足で立って生きる それは日々の営みに責任を持って生きるということではないでしょうか 食べること 着ること 住むこと どんなエネルギーを使うのか その私たちの選択の一つ一つが未来につながっているという感覚を 今こそ取り戻したいと思うのです−>
エンドマークに重なる島田監督のナレーション。この国の未来を拓(ひら)く“選択の日”を目の前に、しみじみと、ずっしりと、この全身に響いてきます。