日本の岐路 衆院解散・総選挙へ 「安倍1強」の是非を問う - 毎日新聞(2017年9月29日)

https://mainichi.jp/articles/20170929/ddm/005/070/055000c
http://archive.is/2017.09.29-004349/https://mainichi.jp/articles/20170929/ddm/005/070/055000c

衆議院が解散された。改造内閣が発足して国会で本格的な質疑を一度も経ないまま、臨時国会冒頭での解散となった。
安倍晋三首相は北朝鮮情勢や消費税の使い道変更を掲げ「国難突破解散」と命名している。なぜいま、民意を問うかについて説得力ある説明を欠いたままである。
だが、こうした解散の仕方も含めて総選挙の争点は明確だ。2012年12月以来約5年にわたる安倍内閣の総括と、長期政権をさらに継続することの是非である。
首相が衆院解散を表明したあと、わずか3日で構図は激変した。小池百合子東京都知事を党首とする「希望の党」が登場した。野党第1党だった民進党希望の党へ実質合流を決めるなど再編が急進展している。

憲法改正の行方に直結
自公両党が政権に復帰して以来、首相は国政選挙で勝利を重ね、「安倍1強」状態を築いた。その力を用いて安全保障関連法や特定秘密保護法、「共謀罪」の法整備などタカ派色の濃い施策を強引に実現した。
ただし、首相や自民への国民の積極的な支持がこの状況をもたらしたとは言い難い。野党第1党の民進党旧民主党政権運営の失敗から立ち直れず、政権批判票の受け皿たり得ない状況が続いていたためだ。
しかも、首相は選挙のたびに経済重視を強調し、それが終わるとタカ派路線に回帰するパターンを繰り返してきた。今回も「生産性革命」「人づくり革命」を掲げている。選挙の直前に消費増税の延期や見直しを持ち出すのもこれで3回連続だ。
さきの東京都議選で自民が歴史的惨敗を喫したのは「森友・加計」疑惑の対応にみられる政権のおごりへの有権者による不信の表明だった。
解散当日の記者会見を省略したのも、説明を軽んじる姿勢の表れと取られても仕方がない。政権5年の実績とともに、その手法が問われよう。
今回の選挙が中長期的な政治の行方に及ぼす影響は極めて大きい。
自民が1強を維持すれば首相が来年秋の自民党総裁選で3選され、新たな総裁任期の3年間にわたり政権を担う足がかりを得る。その場合は4年後の21年秋まで安倍内閣は続き、第1次内閣も含めれば通算10年近くに達することになる。
首相が目指す憲法改正の行方にも直結する。4年の続投が可能になれば、都議選敗北で頓挫しかけた行程も仕切り直せるためだ。
憲法9条自衛隊の根拠規定を加える加憲案を首相はすでに表明している。明らかに最大目標であるにもかかわらず、解散表明の記者会見で全くふれなかったのは不自然だ。
憲法改正をめぐっては希望の党や、日本維新の会も積極姿勢を示している。衆参両院3分の2以上の多数で改憲案を発議する権限を有するのは国会だ。首相は自らが目指す改憲像を具体的に説明すべきだろう。

批判の受け皿は必要だ
野党の責任も大きい。必要である政権批判の受け皿としての能力が今度こそ試される。
民進党議員には離党して小池氏の新党に参加する動きが加速していた。前原誠司代表は突然の合流について安倍政権を倒すための「名を捨てて実を取る」判断だと説明した。このままでは政党が崩壊しかねない状況で、再編は不可避だった。
中道リベラルだった民進党と、改革保守を掲げる希望の党は理念に違いがある。小池氏は安保政策や改憲問題など個別に「踏み絵」を迫るという。希望者が新党で公認される保証はない。
野党結集の必要性は認めるが、理念や政策を捨て去り合流するのでは有権者の理解は得られない。丁寧な手続きと説明を求めたい。
内外の課題は山積している。首相は北朝鮮情勢について圧力路線の継続が争点だと主張する。だが、大切なのは緊迫した情勢に現実的に対応できる外交・安全保障の具体論だ。
国と地方の借金が1000兆円を超し、団塊世代が75歳以上となる25年以降、社会保障費は膨張する。超高齢化が進む中で、持続可能な社会保障の全体像こそ論じるべきだ。
小池氏流の劇場型手法によるとはいえ、国民の選挙への関心が高まってきたことは歓迎したい。
しかし、与野党大衆迎合的な政策を競うようでは本末転倒だ。痛みを伴うビジョンでも、必要であれば臆せず主張する責任がある。各党は建設的な論戦に値する公約の提示を急ぐべきだ。<<