参院定数判決 改革の道止めかねない - 朝日新聞(2017年9月28日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13154762.html
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自ら促してきた改革の歩みを止めかねない判決だ。司法の使命の放棄といわざるを得ない。
いわゆる一票の格差が最大で3・08倍あった昨年の参院選について、最高裁大法廷は合憲と判断した。選挙に先立ち、徳島と高知、鳥取と島根をひとつの選挙区にする「合区」を行ったことなどを、「これまでの最高裁判決の趣旨に沿って是正が図られた」と評価した。
なるほど格差はかつての5倍程度から縮小はした。それでも1人1票ならぬ1人0・3票の価値しか持たない国民が大勢いる。今回の判決には、その視点が決定的に欠けている。
参院議員の任期は6年。解散はなく半数ずつ改選のため、国政に長く影響力がおよぶ。その議員の選出方法が法の下の平等に反し、民意を適切に反映しなければ、正統性はゆらぎ、判断にも疑問符がつく。
その旨指摘してきたのは、ほかならぬ最高裁ではないか。
何より、先の是正が不十分なことは国会自身が認めている。公職選挙法の付則に、次の参院選にむけて制度の抜本的な見直しを検討し「必ず結論を得る」と書きこんだ。是正策はいろいろ考えられたのに、影響をうける関係者をなるべく少なくしようという、内向きの発想でまとめた措置だったからだ。
この判決で「3倍程度は合憲」との考えが独り歩きし、改革の機運がしぼむのが心配だ。定数是正をめぐる国会の怠慢・裏切りは何度もくり返されてきた。司法が一歩後ろに引いてしまったいま、国民が引き続き目を光らせる必要がある。
参院議員の定数配分をめぐっては別の問題もある。
今回、違憲判断は免れたが、合区が解消されるわけではない。このため自民党内には、常にどの県からも少なくとも1人の議員を選べるよう、改憲すべきだとの声がある。衆院選の公約に掲げられる見通しだ。
だがこれは、生煮えで無責任な主張というほかない。
「少なくとも1人」案は、参院議員を「全国民の代表」から「地域の代表」に変えることを意味する。そうなれば、参院にいまと同じ権限や役割を負わせるのは難しくなる。衆院とどうすみ分け、参院はいかなる仕事を担うのか。地方自治について定めている憲法の他の条文との整合をどう図るのか。
こうした点まで検討を深め、考えを示すのが、政党の当然の責務だ。それを怠ったまま「合区解消」「地方重視」と聞こえの良いことだけ唱えるのは、不誠実のそしりを免れない。