首相の冒頭解散戦術 公約サイクルも阻害する - 毎日新聞(2017年9月24日)

https://mainichi.jp/articles/20170924/ddm/005/070/043000c
http://archive.is/2017.09.24-005657/https://mainichi.jp/articles/20170924/ddm/005/070/043000c

安倍晋三首相が臨時国会冒頭で衆院を解散する方針を固めて以降、与野党は急ごしらえの選挙公約作りに追われている。
自民党がこれまで党内でほとんど議論してこなかった消費増税分の使い道変更などを今度の公約に盛り込もうとしているのが典型的だ。政党が国民に約束する公約はそんな軽いものではないはずだ。
衆院議員の任期は4年ある。それを一つの区切りとし、各党は政権を担当した際に実現を目指す政策を衆院選の公約で具体的に提示して有権者に問う。次の衆院選の前には、それがどこまで達成できたか厳しく検証し、各党が再び公約作りに腰を据えて取り組む。それが政権選択選挙である衆院選の在り方だ−−。
公約が言いっぱなしだった反省から、こんな「公約(マニフェスト)サイクル」の必要性が叫ばれてきた。安倍政権発足後、その機運は薄れ公約はないがしろにされている。
冒頭解散は野党の選挙準備不足を狙った戦術でもある。そんな思惑から、「突然」であることをむしろ重視する姿勢は、「公約サイクル」を阻害するものだと言えるだろう。
戦後の衆院選は過去1回を除き、任期満了を待たずに衆院を解散して実施されてきた。歴代首相のほとんどが自らに有利な解散時期を狙ってきたのは確かだ。国会冒頭での解散の例も過去3回ある。
だが今回は、野党が要求してきた国会召集を拒み、内閣改造後2カ月近くも経過した揚げ句に、演説も質疑もせずに解散するという。新内閣発足後、国会で質問も受けずに解散するのは初めてだ。
加計学園森友学園の疑惑隠しというだけではない。5年近い安倍政治を国会で検証することなく、改造内閣が何をしようとしているのかも示さずに選挙に突入するというのである。国会、そして主権者である国民を軽んじているというほかない。
憲法にそんな文言は明記されていないのに、政界では「解散は首相の専権事項」と言われてきた。しかしこれだけ首相が自由に解散できる国は世界でもまれだ。民進党内では、首相の解散権を制限するための憲法改正をすべきだとの声も出ている。
安倍首相の判断をどう見るか。解散のあり方を問う衆院選ともなる。