(書評)ふたつの憲法と日本人 川口暁弘 著 - 東京新聞(2017年9月10日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017091002000186.html
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統制経済下で出た違憲
[評者]古関彰一=獨協大名誉教授
ふたつの憲法、それは言うまでもなく明治憲法日本国憲法であり、日本の近代そのものでもある。とはいえ憲法理念は、異なる激変した時代の中から生まれてきている。
本書は、その流れを編年的に論じて後半部の二割弱を日本国憲法に当てている。同じ「ふたつ」とはいえ、外形的な比較は可能であっても、内的比較がいかに困難であるかを教えられる。
しかし本書が紹介する明治憲法下の電力国家管理法案を、もう一つの日本国憲法下のエネルギー問題である国家管理の視点からも見ることができる。それは戦後社会党政権下の炭鉱国家管理問題を、さらには昨今の発送電分離の議論を、違憲合憲論とともに積極・消極規制目的の視点から、「ふたつの憲法」を解明してみることである。
そもそも明治憲法による中央集権国家は戦時を迎えて一層強化されるが、経済は日本国憲法下に入っても大きな変化は見られず、研究者からは「一九四〇年代論」が見られるほどである。
本書が詳述するごとく、国家総動員法をはじめ、統制経済へと移行するなかで違憲論すらあらわれる。しかし、日本国憲法下でも通商産業省の「行政指導」に象徴される規制によって日本の高度成長は支えられてきたと言われている。
しかもその統制経済の本家には、本書でも「革新官僚」として「統制経済を指導した」とされている岸信介がいた。その流れは変化した憲法を超えて一九七〇年代まで続き、その後は新自由主義政策の下で国鉄・郵政などの民営化へと変化し、いまや安倍政権下では「岩盤規制改革」が叫ばれている。
「ふたつの憲法」はどちらも、財産権・所有権を公共の福祉に反しない限り保障しているに過ぎない。ところが「ふたつの憲法」の下での現実の規制は、まさに祖父と孫とは全く異なっている。そこからは、「ふたつの憲法」をさらに広く「近代」から見直すことが求められている。
吉川弘文館・2160円)

<かわぐち・あきひろ> 1972年生まれ。北海道大准教授。著書『明治憲法欽定史』。


◆もう1冊 
坂野潤治著『帝国と立憲』(筑摩書房)。近代日本が抱えた「帝国」と「立憲」。両者の始まりと攻防、そして「帝国」の暴走を描く。