「国批判の番組に国から賞」 文化庁職員「受賞いかがか」 - 東京新聞(2017年9月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017090902000127.html
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優れたテレビ作品などに贈られる文化庁芸術祭賞の昨年度の審査過程で、国連平和維持活動(PKO)を検証したNHKの番組に対し、事務局の文化庁職員が「国を批判するような番組を賞に選ぶのはいかがなものか」といった趣旨の発言をしていたことが、複数の審査委員と文化庁への取材で分かった。南スーダンPKO派遣部隊に安全保障関連法に基づく新任務が付与された直後の時期で、複数の審査委員から「政権を忖度(そんたく)したとも取れる異例の発言だ」と批判の声が上がる。 (土門哲雄)
作品はNHK大阪放送局の「NHKスペシャル ある文民警察官の死〜カンボジアPKO23年目の告白」。一九九三年、岡山県警高田晴行さん=当時(33)=が武装ゲリラに襲撃され死亡した事件を、隊員らの証言や手記などから丹念に検証した。陸上自衛隊が初めて海外派遣されたカンボジアPKOの際に、現地がいかに危険だったかを浮き彫りにした。
芸術祭賞の昨年度テレビ・ドキュメンタリー部門は三十七作品が応募。文化庁長官から委嘱された審査委員七人が大賞一作と優秀賞三作を選んだ。
関係者によると、昨年十二月上旬、全作品を見た各審査委員が受賞作を決めるため、文化庁内で「ある文民警察官の死」の評価を話し合っていた際、事務局の文化庁芸術文化課の職員が「国からの賞なのに、国を批判するような番組を賞に選ぶのはいかがなものか」との趣旨の発言をした。職員に審査権限はない。複数の審査委員から「それは違う」とその場で異議が上がり、最終的に優秀賞の一つに選ばれた。取材に対し、文化庁の柏田昭生・芸術文化課支援推進室長は事実関係を認め、「PKOの問題が絡んでいたので『政治的または宗教的宣伝意図が顕著でないこと』という審査の留意事項を確認したつもりだったが、言葉足らずで誤解を招いてしまった。伝え方が不正確だった」と説明。「国を批判するものはダメという考え方はいけないし、今回の作品が国を批判する内容とも思わない。(政権を)忖度したわけではない」と話した。
この作品は、芸術祭賞と並ぶ権威とされる「ギャラクシー賞」のテレビ部門で大賞、「放送文化基金賞」のテレビドキュメンタリーでも最優秀賞を受賞した。

◆審査委員「政権を忖度」
芸術祭賞の審査が始まる直前の昨年十一月。南スーダンPKO派遣の陸自部隊に安保法に基づく「駆け付け警護」などの新任務が付与され、「戦闘に巻き込まれる危険性がある」といった懸念が高まっていた。
取材に対し、審査委員を務めたノンフィクション作家の堀川惠子さんは「職員が政権を忖度する発言をしたことにショックを受けたし、情けなかった。(文化庁の)事務方に厳しく抗議した」と不信感を示した。
南スーダンPKOを巡っては、首都ジュバで昨年七月に大規模な武力衝突があり、ジャーナリストが開示請求した日報が廃棄されていたことが昨年十二月に発覚。その後、防衛省自衛隊の組織的隠蔽(いんぺい)が明らかになり、今年七月、当時の稲田朋美防衛相らが引責辞任する事態に発展した。
番組は、停戦合意があるはずの現場でなぜ戦闘が起きたのか、国際貢献を考えさせる作品と評価された。ある審査委員は、取材に対し「職員の発言に、多くの審査委員から『それは違う』と異議が上がった。国を批判するしないという物差しは、審査委員にはない。職員の発言は審査に全く影響しなかった。不思議な忖度が蔓延(まんえん)しているんだろうなと感じた」と話した。