「福島」の思い、授業で考える 横浜の小中学校が道徳に活用 - 東京新聞(2017年3月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017032202000112.html
http://megalodon.jp/2017-0322-0950-56/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017032202000112.html

東京電力福島第一原発事故福島県から横浜市に避難した男子生徒(13)のいじめ問題を受けて、市教育委員会は四月から市立小中学校の放射線教育のあり方を見直す。「放射線や被災地への理解を促す教育が不足していた」(市教委)として、一部の学年で年一〜二時間、実施していた放射線教育に加え、あらたに全学年の道徳の授業で福島県教委作成の道徳資料集を使い、被災者の思いを推し量る授業を目指す。内容は個々の教員に任す方針で、実効性をどう担保するかが課題となりそうだ。 (志村彰太)
「皆が赤ちゃんのころ、福島の原発で爆発があり、多くの人が避難しました。横浜にも避難してきた人がいます。皆はどうしますか」−。三月上旬、同市港北区の高田小学校一年の放射線について教える授業で、担任の庄司昭子(あきこ)教諭が児童に問い掛けた。児童は「友だちになる」「優しくする」と元気に応じた。
一方、庄司教諭が放射性物質が人から人へうつると思うか問うと、「うつる」と答える児童も。庄司教諭は「うつらないよ」と何回も強調した。
避難生徒のいじめ問題では、生徒は同級生から名前に「菌」を付けて呼ばれるなど、差別的な言動を受けた。福島への偏見を抱かせない教育が求められるが、全国的に小・中学生の放射線教育は文部科学省の副読本を使い、小学一、四年に各一コマずつ、中学一年で二コマの授業しかない。
別の横浜市立小で教える三十代男性教諭は「副読本以上のことはしゃべるなと校長に言われ、授業を工夫できない」と漏らす。
このため市教委は二〇一七年度から、あらたに小・中の全学年の道徳の時間を活用することにした。福島県教委の道徳教育資料集には被災体験や、風評被害に立ち向かう姿勢などをテーマにした作文やエッセーが掲載されている。資料集を読み、感想を述べ合い、被災者の立場になって考える大切さを実感する。
教員の被災地理解も深めるため、福島県教委の職員を招いた研修や福島への派遣も行う。市教委指導企画課の三宅一彦課長は「互いの価値観を理解、尊重でき、偏見や差別がなくなるようにしたい」とする。
ただ、道徳の授業年間三十五コマをどの程度、被災地理解に割くか、どのように教えるかなどは個々の教員の裁量に任せるという。
関西学院大学不登校などを研究する貴戸理恵准教授(教育社会学)は「担当教員の問題意識や教育力にばらつきが大きく、授業が形式的に終わる懸念がある。子どもが被災者の話を直接聞く機会を設けるなど、理解を深める取り組みが求められる」と指摘する。