NHK番組「人権侵害」でBPO認定 「不正に細胞入手」根拠なく - 東京新聞(2017年2月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201702/CK2017021102000145.html
http://megalodon.jp/2017-0211-0922-47/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201702/CK2017021102000145.html

放送倫理・番組向上機構BPO)の放送人権委員会(坂井真委員長)は十日、理化学研究所元研究員の小保方晴子(おぼかたはるこ)氏らのSTAP細胞に関する論文を検証した「NHKスペシャル」について、不正行為によってSTAP細胞を作製したと視聴者に受け取られる内容だったとして、小保方氏への名誉毀損(きそん)の人権侵害を認めた。NHKに委員会の決定内容を放送し、再発防止に努めるよう勧告した。勧告は、同委員会の判断の三段階で最も重い。
番組は「調査報告 STAP細胞 不正の深層」と題し、二〇一四年七月二十七日に放送された。同委員会は、番組が「小保方氏が何らかの不正行為によりES細胞を入手し、STAP細胞を作製したとの疑惑がある」と視聴者に受け取られる内容で、裏付ける根拠が示されておらず真実性が認められないと認定。看板番組の一つで、全国放送され、小保方氏が受けた名誉毀損の被害は小さくないと加えた。
原因として、取材が不十分だったというよりも、配慮を欠いた「編集上の問題」を挙げ、説明を加えればこうした事態を避けることはできたとした。一方で、「この決定が調査報道を萎縮させるという見方は適当ではない」としている。
また、取材を拒否する小保方氏をしつこく追跡し、挟み撃ちにする行為などは「放送倫理上の問題がある」と指摘した。その上で「小保方氏が世間の注目を浴びている点に引きずられ、不正の犯人として追及するような姿勢があったのではないか」と疑問視し、報道が過熱した事例の取材の在り方も検討するよう求めた。
同委員会は弁護士ら九人の委員で構成。多数が名誉毀損による人権侵害に当たるとしたが、二人の委員からは「名誉毀損の人権侵害があったとまでは言えない」「名誉毀損とは考えず、放送倫理上の問題があった」とする意見も出た。
小保方氏は一五年七月に人権侵害を申し立て、同委員会は同年八月から審理していた。

◆「番組の事実に誤りない」
NHKの話 「真摯(しんし)に受け止めるが、人権侵害はしていないと考える。関係者への取材を尽くし、番組の中の事実関係に誤りはない」

◆「放送の影響 一生消えない」
小保方晴子氏の話 「放送が私の人生に及ぼした影響は一生消えない。人権侵害や放送倫理上の問題点が正当に認定され、感謝している」

BPO放送人権委員会の決定概要

  • 小保方晴子氏が何らかの不正行為によりES細胞を入手し、STAP細胞を作製したとの疑惑は真実性・相当性が認められず、名誉毀損(きそん)の人権侵害が認められる
  • 放送直前に行われた取材は、拒否する小保方氏を追跡するなど放送倫理上の問題があった
  • 小保方氏と論文共著者との電子メールのやり取りを報じたことについては、科学報道番組としての品位を欠く表現方法だったが、プライバシーの侵害や放送倫理上の問題があったとまでは言えない

◆人権と研究は分けて
研究不正に詳しい榎木英介・近畿大医学部講師の話 決定は重いものだと思う。実際にSTAP細胞問題が起こったころは、かなり突っ込んだ報道がされ、事実の確認以上にプライバシーを暴くような過剰な演出もあったように思う。その点はきちんと受け止めてほしい。ただ、小保方氏の人権は回復されるべきだが、だから研究の不正もなかったということにならないように気を付けるべきだ。二つの問題をきちんと切り分けて扱ってほしい。

<STAP細胞問題> 理化学研究所で研究していた小保方晴子氏らが2014年1月、マウスの細胞を刺激し新たな万能細胞の「STAP細胞」を作ったと英科学誌ネイチャーに発表した。理研の調査委員会は、論文の画像に捏造(ねつぞう)と改ざんの不正があったと認定。理研や小保方氏本人が実施した検証実験でSTAP細胞は作製できず、小保方氏は14年12月に理研を退職した。理研の調査委は、STAP細胞はES細胞の混入と結論付けた。