(BPO人権侵害を認定)辛さんの名誉回復急げ - 沖縄タイムズ(2018年3月9日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/220154
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昨年1月2日と同9日に放送された東京MXテレビの情報番組「ニュース女子」について、放送倫理・番組向上機構BPO)の放送人権委員会は、ヘイトスピーチ(憎悪表現)反対団体「のりこえねっと」の辛(シン)淑(ス)玉(ゴ)共同代表の名誉を毀損(きそん)する人権侵害があったと認め、MXに再発防止を勧告した。委員会として最も重い判断だ。
同番組を巡っては昨年12月、BPO放送倫理検証委員会が「重大な放送倫理違反があった」とする意見を出したばかり。今回の勧告は放送上の倫理に加え、人権上も重大な過失があったと認定した。一つの番組について2委員会で意見と勧告が出されるのは異例。放送したMXはもちろん、番組制作会社のDHCテレビジョンも猛省すべきだ。
勧告を前にMXは今月、制作主体をDHC側からMXに移す協議が不調に終わったとして、同番組の終了を発表した。DHC側が問題発覚後も「基地反対派の言い分を聞く必要はない」との見解を示し、昨年のBPO意見後も「見解は変わらない」と拒否していることを考えれば、当然といえる。
これに対しDHC側は、今後も地方局やインターネット上で同番組を継続すると表明する。特にネットは、検証可能な第三者機関が確立しておらず、公益性や情報の質確保の点で課題が多い。
意見・勧告を受けた同番組もいまだネットで繰り返し流れている。辛さんへの名誉毀損と人権侵害は、今この瞬間も続いているのである。

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BPOの認定によると同番組は、辛さんが在日コリアン3世であることをことさらに強調した上、「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的にやってきた人物でその『黒幕』」「基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している」と視聴者が受け取れる情報を提示したが、事実ではなかった。
そもそも辛さんへの取材は一切なかった。
放送以降、ネット上には辛さんへの誹謗(ひぼう)中傷が広がり、「殺せ」など過激な発言が飛び交った。放送後にドイツに移住した辛さんは、「実質的な亡命だった」との手記を本紙に寄せた。
勧告を受けた記者会見で、ドイツでは「安心して(郵便)ポストを開けられる」と述べた言葉からは、いわれなき中傷が日常生活を侵食する深刻な被害状況が伝わる。
MXは今回「再発防止策を着実に実行して信頼される放送の推進に努める」とコメントした。しかしこの間、辛さんが度々申し入れてきた協議や謝罪には応じていない。

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DHC側のコメントはこれまで、自身の番組制作手法の正当化に終始している。番組内で辛さんや基地建設に反対する人々に差別的な意見を繰り返したジャーナリストやコメンテーターも沈黙したままだ。
勧告は、放送から1年以上が経過しようやく始まった一歩だ。辛さんの奪われた日常を取り戻すには、謝罪と名誉回復の作業が必要だ。全ての番組関係者が最低限果たすべき責任である。