施政方針演説 未来を拓くと言うなら - 朝日新聞(2017年1月22日)

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「未来を拓(ひら)く。これは、すべての国会議員の責任です」
通常国会が開幕し、安倍首相が施政方針演説でそう訴えた。
一人ひとりの議員が「未来」を思い、議論し、合意形成をはかる。それはあるべき姿だ。だが演説を聞く限り、首相の本気度には大きな疑問符がつく。
たとえば沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題である。「最高裁判決に従い、名護市辺野古沖への移設工事を進める」「必要なことは、実行だ。結果を出すことだ」と言い切った。
一方で、たび重なる選挙で示された沖縄県民の「辺野古移設反対」の民意や、県との対話をどう進めるかについてはまったく語らなかった。
沖縄の未来をつくる主人公は沖縄に住む人々だ。その当たり前のことが、首相の演説からは抜け落ちている。
1千兆円を超えて膨らみ続ける日本の借金残高。演説は税収増を誇る一方で、2020年度に基礎的財政収支を黒字化するとの目標をどう実現するかの道筋などには触れなかった。
穴が開いたままの社会保障の財源をどう確保するのか。そこへの言及も薄い。国の借金を放置すれば、ツケは未来の世代に回る。いつまでも避けては通れない現役世代の負担の議論を、演説は避けてしまった。
「意見の違いはあっても、真摯(しんし)かつ建設的な議論をたたかわせ、結果を出していこう」
首相は演説で、民進党など野党にそう呼びかけた。
だが先の臨時国会での安倍政権のふるまいは違った。
首相は「私が述べたことをまったくご理解いただいていないようであれば、こんな議論を何時間やっても同じ」と言い、与党は採決強行を繰り返した。
少数派の異論や批判に耳を傾け、よりよい合意をめざす。それこそが「建設的な議論」の名にふさわしい。一定の審議時間が積み上がったからと、数の力で自らの案を押し通すやり方を「建設的」とは言わない。
首相は演説で、旧民主党政権時代の失敗を当てこするなど民進党への挑発を重ねた。建設的な議論を呼びかけるのにふさわしい態度とは思えない。
トランプ米大統領の就任で、国際社会が揺れる中での国会である。天皇陛下の退位に関する法整備や、「テロ等準備罪」を新設する法案など、丁寧な合意形成が求められる法案が焦点となる国会でもある。
演説を言葉だけに終わらせず、未来に向けた「建設的な議論」を実現する。その大きな責任は首相自身にある。