(私説・論説室から)事実を記録する大切さ - 東京新聞(2016年12月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2016122102000138.html
http://megalodon.jp/2016-1224-1026-05/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2016122102000138.html

新聞が事実を記録することの大切さは分かっていたつもりだったが、あらためて痛感した。年末に予定されている安倍晋三首相の米ハワイ真珠湾訪問が、現職首相として初めてかどうかについて、である。
結論から言えば、一九五一年に吉田茂首相の訪問例があり、安倍首相が初めてではないのだが、当初は本紙を含めて、政府の説明に沿って「現職首相が真珠湾を訪問するのは安倍首相が初めて」と報じていた。
廃棄したのか、外務省にも詳細な記録が残っていないようで、菅義偉官房長官が吉田首相の訪問を確認したのは「当時の報道などの資料」。当時の報道がなければ、安倍首相こそ初めて真珠湾を訪問した現職首相かのように、歴史が「改変」されていたに違いない。
本社はどう報じていたのか。同年九月十三日発行の「夕刊中部日本新聞」は、吉田首相が十二日午前「全権団および随員一行とともに約二十分にわたって真珠湾一帯を視察、十年前日本海空軍の奇襲攻撃の犠牲となった米陸海軍将兵の霊に心からの祈りをささげた」と報じていた。真珠湾を見下ろす米海軍司令部を非公式に訪問したのはその後だ。
ほかの全国紙と比べても、最も詳細に報じている。新聞報道が第一級の歴史的史料となる好例だ。吉田首相ら一行の行動記録を克明に本社に送り続けたのは、ホノルル通信員の泉さん。ただ感謝、である。 (豊田洋一)